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―巨 体―

風牙(トーガ)!」

 

 ルーフが魔法を発動させた瞬間、風の精霊の力を借り受けて生み出した衝撃波の(やいば)が、ラーソエルを襲う。

 もっとも、彼の手前で術の効果――というよりは術を成立させる為に不可欠な精霊の干渉が無くなってしまう。

 ラーソエルが精霊を支配したのだ。

 そうなると精霊の力によって発生させられていた衝撃波は、その威力を急速に減じざるを得ない。

 

 しかし一度発生したものが、唐突に消えることも有り得ない。

 威力を何分の一以下に落としながらも、衝撃波の刃は確実にラーソエルに迫る。

 だが、それでも彼は、何1つ防御行動を取ろうとはしなかった。

 この程度の威力ならば、防御するまでもないということなのだろうか。

 いや――、

 

「ギガース!」

 

「!?」


 ラーソエルの掛け声に合わせて、何か巨大な物体が地中からせり上がってくる。

 それが盾となって、衝撃波からラーソエルを庇った。

 

「ヘカトンケイル!」

 

 更にもう一体。

 

「………………!!」

 

 ルーフは唐突に出現した2体の巨大な存在を()の当たりにして、思わず身を震わせた。

 彼の前に出現したのは巨人である。

 その身長は10m近くあり、あまりにも巨大で鋼の如き強靱な筋肉に覆われた体躯(たいく)は、人を圧倒するには十分過ぎるほどの迫力があった。

 

 だが、竜を見慣れているルーフにとっては、さほど驚くような大きさではない。

 彼が不覚にも震えてしまったのは、巨人達のあまりにも異様な姿によるものだった。


 最初に出現した巨人――おそらくはギガースという名なのであろう――は、頭髪の無い頭部に、理性よりも獣性が上回るような、凶暴で(いか)めしい顔付きをしていた。

 口には猪の如く、下顎から伸びた鋭い牙が見て取れる。

 首から上を見ただけでも、かなり恐ろしげな風貌をしていた。

 

 しかし、ギガースの首から下は、かなりの筋肉質であることを除けばそれほど人間と差異がある物ではない。

 いや、それも腰までだ。

 その両脚は決定的に人間とは違った。

 

 そもそも、それを「脚」と呼んでも良いものなのだろうか。

 その本来脚があるべき部分は、長い蛇体――小さな前脚があるので蜥蜴なのかもしれないが――と化していたのだった。

 その2本の蛇体が大地の上をうねりつつ、上半身を支えている。

 

 そして、もう一方の巨人――名はヘカトンケイルというのであろう――は、ギガースとは対照的に上半身こそが異様であった。

 ヘカトンケイルの両肩からは幾本もの腕が生えている。

 

 また、頭部はいくつもの顔で覆われていた。

 顔とはいっても、限られた面積の中に複数存在する為に混ざり合い、口の隣に目があるなどはまだ序の口で、時には口の中に目があったり、鼻が縦に割れて口と化していたりと、まさにこの世の者とは思えない異形である。

 

「ギガースとヘカトンケイル──。

 ボクが魔界から連れてきたんだ。

 元々は神の眷属だから、なかなか頼れる存在だよ」

 

 と、ラーソエルは自慢げに胸を張る。

 

「ね、凄いでしょ、コレ? 

 まあ、神々は失敗作扱いして魔界に捨てちゃったみたいだけど、自分で(つく)っておいて勝手な話だよねぇ。

 

 でも、これはこれで(おもむき)深い、いい造形をしているとボクは思うな。

 失敗は成功の元ってこういうことを言うんだね。

 ……アレ、違ったかな?」

 

 そんなラーソエルの(とぼ)けた言葉を、ルーフは半分聞き流すようにして聞いていた。

 彼がこの巨人達を呼び出した理由を想像すると、じっくり聞いている余裕など無い。

 

「……さっき、君は攻撃しない──って言ったよね……?」

 

 ルーフは恐る恐るラーソエルに問う。

 

「うん、言ったよ」

 

 ラーソエルは笑った。

 何か悪戯(いたずら)を考えているかのような笑みだ。

 

「だから攻撃は、ギガースとヘカトンケイルに担当してもらうんだ」

 

 ラーソエルがそう言うなり、ギガースの長い脚がルーフを襲う。その爪先にはちゃんと口があり、それを大きく開いてルーフを一口で飲み込もうとしているようだ。

 

「やっぱりぃ!」

 

 悲鳴じみた声を上げながら、ルーフは真横に跳ねて地面を転がった。

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