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―斬竜剣士対邪竜四天王―

 一方ヴリトラは、ファーブの反応を意外そうに受け止めている。

 

『ふむ……。

 得体の知れぬ目玉にまで見知っていてもらえるとは、光栄じゃな』

 

 そんなヴリトラの声に、ファーブは、

 

「当然だ。

 お前とは会ったことがあるからな」


 と、欠片も懐かしさを感じさせぬ口調で答える。

 その言葉にヴリトラは、(いぶか)しげに表情を動かした。

 

『む? 目玉なんぞに知り合いはいないはずじゃが。

 ……いや待てよ、その気配はファーブニルか! 

 クックック……。

 我等四天王に次ぐとされ、不死竜とまで呼ばれていた貴様が、なんだその哀れな醜態は? 

 竜族に封印を施されたな?』

 

「放っておけよ! 

 結構気に入ってるんだからさ……」

 

『負け惜しみを……。

 どうだファーブニル、我が配下に降らぬか? 

 そうすれば、その忌まわしき封印を解除してやらぬでもないぞ? 

 クックックッ……』

 

 ヴリトラはさも楽しげに、ファーブへと誘いの言葉を投げかける。

 それはさほど本気ではない、挑発まがいの言葉であったが、だから当然の如く、

 

「断る! 

 俺は自分より実力の劣る奴の下につく気は無いね。

 それ以前に、お前のこと嫌いだし」


 と、ファーブにすげない拒絶の言葉で煽り返された。

 それを受けてヴリトラは激怒する。

 

『何だとぉ!?』

 

 そのあまりの怒気に大気さえもが震えるが、彼がそこまで反応したのは、ある意味その言葉が真実だったからだろう。


「大体お前は、すぐにザンに倒されるんだ。

 俺を勧誘している場合じゃないだろ?」

 

「その通りだ。

 あんたの正体を知ったら、ますます負けられなくなったな。

 あんたのような雑魚に負けていたら、父さんに申しわけないよ……」

 

 ファーブに続いて今度はザンの辛辣な言葉が、ヴリトラの怒りの炎に油を注いだ。

 

『雑魚だとぉ!? 

 四天王と讃えられたこの邪炎竜ヴリトラが雑魚と言うか、この小娘がぁ!!』

 

「うわっ!?」

 

 ルーフは小さく悲鳴を上げる。

 それはヴリトラのあまりに凄まじい怒気を感じて、震え上がってしまった所為だが、その怒りの声が辺りに響くと同時に、その巨体の周囲に数十個もの火球が出現した所為でもある。

 火球の1つ1つは、人の頭大のサイズがあった。


(あれは……ヤバイな)


 ザンはその火球の危険性を感じ取ったのか、ルーフの身を守るようにファーブへと促す。

 

「……ファーブ、ルーフのことを頼む」

 

「分かった。

 ……気をつけてな」

 

 そしてファーブがルーフの方へ行くのを無言で見届けたザンは、ヴリトラへと挑発的に手招きをした。

 

「来いよ……!」

 

『ククク……。

 そんなに大きな態度を取っていられるのも今の内じゃ。

 受けよ!』

 

 ヴリトラの号令を受け、火球の1つが高速でザンへと突き進む。

 それは残像を生み、一瞬線のように見えた。

 

(速い!)

 

 パーンッと、破裂音が辺りに響き渡り、その瞬間にザンは頭部に強い衝撃を受けて()()る。

  

「ぐっ……!」

 

 しかしザンは体勢を大きく崩したものの、なんとか倒れずに済んだようだ。

 それでも額には、じわりと血が(にじ)んでいる。

 

『どうだ我が火球撃(ヴィア)の威力は? 

 本来ならば最下級の火炎魔法だが、儂の魔力で火球の1つ1つに、先ほど貴様が受けた渦旋炎熱流(ゲイガ)と同等の熱量を封じ込めてある。

 

 拡散させず一点に凝縮した力ならば、貴様の結界を突き破ることも可能だ。

 もっとも結界を破る時に、相当威力を削がれてはいるようじゃがな……。

 それでも何十発も食らって、無事でいられるかな?』

 

「ちっ、わざと一撃で倒さずに、ネチネチといたぶる腹づもりだな。

 さっきも言ったけど、その余裕……絶対後悔させてやるからな!」


 ザンは手の甲で額の血を拭った。

 そして剣を構えるなり、素早くヴリトラ目掛けて踏み込む。

 火球の群れはそれに反応して、一斉に彼女へと襲いかかった。


 だが、ザンは微塵も怯まない。

 彼女は襲い来る火球の群れを、次々と剣で叩き落としていった。

 最初の一撃を受けた時とは違い、今度は油断していない。


 しかしそれは、凄まじいまでの動体視力と、剣を操る技術があってこそだ。

 ザンほどの能力があれば、何百、何千と矢が飛び交う戦場を、傷1つ負うことなく平然と横切ることも可能だろう。

 

『ぬうっ? 

 貴様ぁっ!!』

 

 火球の(ことごと)くを打ち落とされたヴリトラであったが、彼もその程度では怯まない。

 すかさず火球攻撃の第二波。

 今度も先ほどと同規模の火球群が、ザンを襲う。

 いや――、

 

「!?」

 

 更に第三波、第四波と攻撃が続き、火球の数が数倍に膨れ上がる。

 こうなるとさすがにザンも火球の全てを(さば)き切ることができず、そのいくつかは彼女の身体に炸裂した。

 結界によってその威力を弱められていたとしても、彼女が受けたダメージは小さくはないだろう。


 むしろ普通の人間ならば、絶命していてもおかしくはないほどの衝撃が、その身体に叩き込まれている。

 しかしそれでもなお、ザンは躊躇(ちゅうちょ)無くヴリトラを目指す。


 最初から多少のダメージは織り込み済みだったとしても、常人ではこうも完全に痛みを無視することはできないはずだ。

 だが、今の彼女はそんな些細な(・・・)ことすらも感じないほどに、怒りと憎しみで心を殺されていた。

 

『この……!』

 

 ヴリトラはここに至って、初めて怯んだ。

 既に(ふとひろ)に潜り込まれたような状態となり、最早ザンの動きを止めることも、結界で防御することが可能な(いとま)も無ければ、間合いでも無い。

 

 しかも瞬間的にであれば、音速すらも超えているかもしれないザンの攻撃は、とても回避できるものではなかった。

 事実、先ほどもカードの姿の時には、反応することすらできずに彼女の一撃を受けている。

 人間の姿の時の能力が、本性よりも大幅に制限されていたとはいえ、本来はあり得ないことであった。

 

 だからヴリトラは、全身の筋肉を硬直させて身構える。

 彼の鋼鉄をも上回る硬度を誇る皮膚と、この世のあらゆる物質を砕くことが可能な剛力を生み出す強靱な筋肉繊維の束は、いかに斬竜剣士の繰り出す斬撃とて、そう易々とは斬り裂けないだろう。

 そして致命傷にさえならなければ、いかなる傷も再生させればそれで済む。

 

 もっとも、それが気休めにしか過ぎないのも事実であった。

 たとえ再生可能な傷でも、やはりダメージはダメージ。

 それが重なるのはまずい。

 

 だが、今はそれを甘んじて正面から受け止める――その決断を一瞬でしてしまうあたりが、ヴリトラを邪竜の最高位である四天王たらしめている要因の1つなのかもしない。


 ともかくヴリトラの防御態勢は、辛うじてザンが攻撃に移るよりも早く整えることができた。

 しかしそれでも――、

 

「はあぁっ!」


『ぐぬっ!?」

 

 ザンは跳躍し、渾身の力を込めて剣を一閃した。

 するとヴリトラの胸が大きく斬り裂かれ、大量の血飛沫が吹き上がる。

 その傷はおそらく肋骨を斬り裂き、内臓にまで達しているだろう。


 ヴリトラはある程度のダメージは覚悟していたが、予想していた以上に深かい傷を受けて、内心で驚愕した。

 ファーブの過去は2章などで描く予定です。

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