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―ハンディキャップ―

(なんだろう……まだ嫌な感覚が大きくなっていく……)

 

 ルーフが先程感じた大きな喪失感――それはまだ払拭されていなかった。

 それどころか、むしろ大きくなっているような気さえする。


 だが今の彼には、それが何なのかを確かめる(すべ)が――いや、余裕が無い。

 少しでも気を抜けば、喪失するのは自分自身の命だ。

 

「くっ!」

 

 1本の光の矢が、ルーフ目掛けて迫る。

 光の矢は彼が形成した結界の表面――球形の曲面を滑り、はるか後方の地面に突き刺さった。

 その地面は、直径数十cmほどの円形の穴を残して蒸発した。

 人間が喰らえば、文字通り風穴が開く。

 

「おしいっ! 

 ハズレかぁ~」

 

 背に一対の黒い翼を生やして空中を飛び回る少年――ラーソエルは、楽しげにケタケタと笑った。

 このアースガルの地が、いや、世界が滅びるかどうかの瀬戸際とも言える戦いの最中(さなか)にあっても、彼には全く緊張感が無い。

 

「この……!」

 

 そんなラーソエル目掛けて、今度はルーフがお返しとばかりに攻撃魔法を放つ。

 凄まじい炎がラーソエルを襲うが、その炎も彼に届く寸前であえなく霧散した。

 

「うふふふ、無駄だよぉ~。

 まあ、ちょっと温かった(・・・・)けどね」

 

 ラーソエルは得意げに胸を張り、そして今度は(おど)けてクルクルと空中に円を描くように飛んだ。

 彼はルーフに対して全く脅威を感じていないようで、ただ遊んでいるつもりのようである。

 

(まただ……!

 やっぱり、あいつには魔法が通用しないんだ!)

 

 ルーフの顔が、緊張に凝り固まった。

 魔法が通用しない敵に対して、魔法使いである彼に残された手段は多くはない。

 おそらくラーソエルに対して確実にダメージを与えられる方法は、物理的な攻撃だろう。

 しかし非力な彼には、物理的な攻撃手段が皆無である。

 

 そして壊滅状態である竜騎士達の援護も、最早期待はできない。

 ラーソエルは子供のような外見からは、想像できないほど強い。

 特に魔法攻撃の威力は凄まじく、これはかなり高レベルの魔法を扱えるルーフだからこそ対処できるのであって、どちらかといえば肉弾戦が専門の竜騎士達にはあまりにも脅威だ。


 事実、ルーフの加勢に加わろうとした竜騎士が既に、2人もラーソエルに倒されていた。

 だからたとえ竜騎士達が健在であっても、応援を求めることは得策ではない。

 ましてや精霊までも操る能力を持つラーソエルに対して、精霊をけしかけるなんてことは愚の骨頂であった。

 敵が更に増えるだけだ。

 

 つまりルーフにとっては、八方塞がりとも言える状況であった。

 

(でも、やっぱり僕は魔法に頼るしかない……)

 

 ルーフは体内の魔力を高めた。

 具体的に何をすればいいのか、それはまだ分からない。

 だが、いつでも必要な術が使えるように、準備をしておいて損はないだろう。

 まあ、彼からは何もできないという状況には、何も変わりはなかったが。

 

「う~ん、どうしたらいいのか、迷っているようだねぇ。

 やっぱり、ボクが強すぎるんだ。

 うん、これじゃあゲームにならないから、ハンデをあげるよ」

 

 変化の乏しい現状に飽きたのか、ラーソエルは1つの提案をルーフに持ち掛ける。

 

「……ハンデ?」

 

 ルーフはラーソエルの言葉に、カチンと反発を感じつつも問い返した。

 だが、彼が反発したのは「ハンデ」という言葉にではない。

 事実、彼とラーソエルとの間には、絶対的な実力差がある。

 彼の心情的には、むしろハンデがあって当然だと思う。

 是非ともハンデは欲しい。

 

 だが今は、そんな甘いことを言っていられるような状況ではない。

 命を懸けた戦いの最中(さなか)だ。

 既に沢山の命が奪われてもいる。

 

 それなのにラーソエルは「ゲーム」だと言った。

 この凄惨な戦いをゲームだと。

 それはルーフにとって、許しがたいもののように感じられたのだ。

 だから――、

 

「ハンデって何?」

 

 相手がハンデをくれるのなら、それにつけ込んででも勝ってやろうとルーフは思った。

 

「うん、ボクは攻撃をしない。

 ボクはね(・・・・)

 これでキミは、少し楽になるんじゃないかな? 

 だからもっと頑張って、ボクを楽しませてよ」

 

 と、ラーソエルは言うが、それが虚言(きょげん)である可能性もある。

 彼の言葉を信用して、防御を(おろそ)かにするのは危険だ。

 油断をしたところに、思わぬ攻撃が来るかもしれない。

 

 だが、必要以上に警戒する必要はない──と、ルーフは思った。

 自身よりもはるかに格下の相手に対して、ラーソエルがそんな小手先の手段に頼らなければならない理由はないのだから。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……我が敵を斬り裂かんが為に、風霊()()よ」

 

 ルーフは呪文の詠唱を開始する。

 たとえラーソエルがあらゆる魔法効果を無効化したとしても、彼が先程「(ぬる)かった」と言ったように、炎から発生した熱エネルギーまで消せる訳ではあるまい。

 魔法その物が無効化されたとしても、その前に発生したエネルギーは確実に生きているのだ。

 

 もっとも、そんな残留エネルギー程度の物では、常人ならばともかく、それをはるかに上回る存在にとっては微風のような物にしか感じないだろう。

 事実、ラーソエルは激しい炎から発生した熱ですらも、全くダメージを受けていない。

 結界で防御されれば、なおのことダメージを与えることは困難だ。

 おそらく余程高位の魔法から生じた余波でなければ、彼にダメージを与えることは不可能だ。

 

 そしてそれだけの大魔法は、ルーフの魔力を全て注ぎ込まなければ発動することさえ難しいかもしれない。

 仮に発動できても無効化されてしまえば、やはりラーソエルにとってさほど大きなダメージにならなかった――という可能性も十分に有り得る。

 与えるダメージが、決定打でなければ後がない。 

 だからこの手段は、本当に追い込まれた時の最後の賭けとするべきだ。

 

 だが魔法攻撃はラーソエルに対して、完全に無駄という訳では無いのだ。

 少なくとも牽制には使える。

 そしていかに魔法を無効化する能力があったとしても、中には例外はあるのかもしれない。

 それを探る為、ルーフは無駄に魔力を消費しないように威力を抑えて、術を発動させた。

 明日の更新は休む予定です。

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