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―竜族の覚悟―

「何でリザンを見捨てるような、真似をしたのよっ!?」

 

 シグルーンの叫びが、竜族の進行を押し留めていた。

 彼女から発せられるその怒気と殺気は凄まじく、たかが1人の人間から発せられいるとは思えないほど強い。

 また、彼女に従う三つ首の闇竜の存在も、看過できなかった。

 さすがに竜族の戦士達も(ひる)む。

 

「納得のいく答えが無ければ、ここは絶対に通さないわよ……!」

 

『何を馬鹿な……今は一刻も早く、ティアマットも(ほふ)るのが先決。

 そのようなことで、大局を見失ってどうする?』

 

「そのようなこと……?」

 

 竜族よりの返答を受けて、シグルーンは目を鋭く細めた。

 その瞬間──、

 

『!?』

 

 唐突に先程返答した竜が、突風に煽られたかのように吹き飛んだ。

 シグルーンが放出した膨大な闘気を、その身に叩きつけられたのだ。

 

「そのようなこと!? 

 そのようなことですって!? 

 大切な肉親を奪われた私の気持ちを、そんな一言で片付けるんじゃないっ!!」

 

『…………!!』

 

 竜達は引き潮のようにシグルーンから離れた。

 矮小な1人の人間にしか過ぎないはずの者に、数千を数える竜の群れが呑まれかけている。

 

(こんな連中で邪竜王と戦おうだなんて、竜族の質も落ちたものだ……)

 

 クロは内心で嘆息した。

 平和な時代が長く続いたが(ゆえ)に、竜という種族の能力は衰退の一途を辿っている。

 これは200年前の邪竜大戦が始まる直前の時点でも、厳然とした事実だった。

 

 だからこそティアマットは戦いによって、竜という種の能力向上を促進させる目的で邪竜大戦を引き起こしたのだという。

 その結果、激しい戦いを生き抜く為に、より戦いの能力に特化した種族、闇竜(ダークネスドラゴン)族が生まれた。

 彼女の目論見は、ある意味成功していたと言える。

 

 だがその一方では、もとより争いをあまり好まない竜族は斬竜剣士を生み出し、そして戦いを彼らに任せてしまった。

 結果、自ら戦うことを放棄した竜族に、更に顕著な衰退の波が押し寄せているのは当然といえば当然である。

 

『あまり御館様を怒らせない方がいい。

 我々があのリヴァイアサンをも倒したことは、既に知っているのであろう? 

 ならばこれ以上御館様の御機嫌を損ねたら、どうなるのかは想像できるはずだ』

 

『クッ……!』

 

 本来は仇敵であるはずの闇竜のクロに忠告され、竜族の面々は屈辱で顔を歪ませた。

 だが、事実は事実だ。

 もしもシグルーン達を敵に回せば、竜族は途方もない損害を被ることになるだろう。


 なにせ彼女達は、四天王にも匹敵する能力を持っていることは間違いないのだ。

 そしてこの数千を数える竜族の群れの中にあっても、四天王に匹敵する能力持つ者は皆無に近い。

 

 そんな何やら烏合(うごう)の衆のような竜の群れの中から、シグルーンに向けて進み出る者がいた。

 今の(いか)れるシグルーンに近付けるだけでも、大したものである。

 

 それは1人の竜人であった。

 彼の2mほどの竜としては小さな身体にローブを(まと)った姿は、かなり人間に近い。

 もっとも、頭部の形状や尾、そして背から生えた蝙蝠を思わせる翼など、竜の特徴も色濃く残してはいるが、それでも普通の竜よりもはるかに人間と意志の疎通がしやすいように見えた。

 

「……私がこの群を預かる長、カンヘルと申す。

 一族の者から、あなたへの配慮が足りない発言があったことについては、私から詫びよう。

 だが、我々も必死であることを理解してもらいたい。

 それにザンのことは我々とて、悲しく無い訳ではない……」

 

「じゃあ、なんで傍観なんかしていたのよ!? 

 もっと早くこの場に駆けつけることだって、できたでしょう。

 そうしていれば、あの()だって助かっていたかもしれないのに。

 なのにあなた達は、安全な所で傍観していたっ!」

 

 シグルーンの指摘を受けて、カンヘルは決まり悪そうにうつむいた。

 

「確かにあなたの言うとおり傍観した。

 だが、我々とて下手に動く訳にはいかなかった。

 今ここにいる戦士が(たば)になってかかっても、ティアマットを倒せる確率は高くない。


 その上で、邪竜共……特にリヴァイアサンの相手をして、戦力が消耗するのは何としても避けたかったのだ。

 だから少々言葉が悪いが、あなた達を利用させてもらった……。

 ……それに、斬竜王の血を受け継ぐ者ならば、どうにかしてこの危機を打開してくれるのではないかという期待もあった」

 

「私達を捨て駒にしたというのね……!?」

 

 シグルーンの口から、ギリリと奥歯を噛みしめる音が漏れた。

 

「ふざけないでよっ! 

 そんな誰かを犠牲にしなきゃならないような姑息なやり方で、あなた達みたいな腰抜けの集まりが勝てるような相手だと思っているの!?」

 

「いや……」


 激昂するシグルーンの非難の声を受けても、カンヘルは動じなかった。

 彼には罪悪感や後悔の念は無い。

 いや、そこにはそのような感情が入り込める余地は、もう無かった。

 

 シグルーンはカンヘルの眼差しの中に、深い覚悟の色を見て言葉を失う。

 

「誰かを……ではない。

 全てを……だ。

 我々は生きて帰るつもりはない。

 もしもの時は、我ら全員でティアマットと共に自爆する……。

 どのような犠牲を払ってでも、奴だけは倒さねばならない……!」

 

「……馬鹿げてる……!」

 

 シグルーンは呻いた。

 家族が入院した為、今後更新を休むことが増えるかもしれません。

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