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―最強の主従―

闇竜(ダークネスドラゴン)程度が、(わらわ)に逆らうというのかっ!? 

 妾の崇高な復讐を邪魔立てすることは、何人たりとも許さぬぞォォォォーっ!!』

 

 リヴァイアサンの周囲に、突然何十本の巨大な氷柱(ひょうちゅう)が生じた。

 それは高速で回転しながら、一斉にクロ目掛けて襲いかかる。

 まともに喰らえば、串刺しになるだけでは済まないだろう。

 だが、クロは4枚の巨大な翼を羽ばたかせ、その風圧のみで氷柱を(ことごと)く吹き散らした。

 

「よーしクロ、火炎息(ファイアーブレス)よ!」

 

『……は?

 しかし奴には、さほど効果は無いと思いますが?』

 

 シグルーンの指示を受けて、クロは(いぶか)しげに問う。

 

「いーから。

 さっきの私と同じ目にあわせてやるのよ!」

 

『……ははあ、なるほど。

 分かりました』

 

 クロは得心いったような表情を浮かべ、すぐさま3本の首全てから火炎息を吐き出した。

 

『ぬううっ、これしきの炎で妾を(ほふ)れると思うてかっ!!』

 

 炎はリヴァイアサンの全身に、絡みつくように(おお)う。

 もっともこれだけでは強靱なリヴァイアサンの肉体を、焼くことなどできはしない。

 だが、クロは間断なく炎を吐き続ける。


 目的はリヴァイアサンの身体を焼くことではない。

 彼女の周囲の空気を、燃焼させることだ。

 勿論水竜であり、水中に何時間でも潜り続けることができるリヴァイアサンを、酸欠で倒すことは難しい。


 しかし大気が燃焼することによって、リヴィアサンの周囲の空気は急激に薄くなり気圧が下がる。

 これによって彼女の体内で、減圧症に似た症状が引き起こされる可能性はあった。

 もっとも水揚げされた深海魚のように、身体が膨れて眼球が飛び出す──という症状までは、頑強な竜である彼女に起こらないだろうが、苦痛は少なからずあるはずだ。


 更にそこに生じた真空状態へと大気が爆発的に流れ込むことによって、炎はより強い火力を得て燃え盛った。 

 結果、そこにはリヴァイアサンを中心にして絶え間なく爆発を繰り返す、太陽の如き炎の結界が完成した。


 これは先程シグルーンが閉じこめられた水球の牢獄と同様に、内部の存在を封じ込めて滅ぼす、炎の牢獄である。

 

『……くっ!』


 事実、リヴァイアサンはこの炎の牢獄から抜け出そうとしたが、クロの火炎息はその行く手を(はば)むように、絶え間なく放射されている所為で抜け出せない。

 しかも周囲を炎によって完全に閉ざされた今となっては、彼女が最も得意とする水属性の魔法を使用しての脱出も難しい。

 その周囲には火の精霊しか、存在していないからだ。

 

 もっともこの程度ではリヴァイアサンを倒すことは不可能だが、四天王よりも下位とはいえ、腐っても闇竜族の王子の火炎息だ。

 少なくとも足止め程度の、効果はあるだろう。

 

 それを利用して、シグルーンは決定打を準備していた。

 彼女はゆっくりと時間をかけて魔力を高め、大規模な魔法攻撃を発動させようとしているらしい。

 

「クロ もう少しよ。

 気を抜くんじゃないわよ!」

 

『は、はあ』

 

 シグルーンの叱咤激励が飛ぶ。

 だが、さすがに超高熱の炎を吐き出し続けるクロも、少々辛そうだ。

 そろそろ彼の口の中が焼け始めている。


 しかしこの炎を止めるわけにはいかない。

 相手は四天王に匹敵する実力を持っているのだ。

 少しでも隙を見せれば、この有利な状況は瞬時に(くつがえ)りかねなかった。

 

『ガアアァァァァァーッ!!!!』

 

 リヴァイアサンはシグルーン達へ向かって、突進を開始する。

 あの炎に包まれた巨体による特攻を受ければ、さすがにシグルーンらも無事では済まない。

 

『お、館様!?』

 

 シグルーンの指示を仰ぐように、クロが叫ぶ。

 だが、彼女はさほど動じた気配を見せない。

 

「まだよ、私の合図があるまで、(ブレス)は止めないで!」

  

 続いて、彼女は(よど)みなく、そして力強く呪文の詠唱を開始――。

 

「白銀の吐息に囚われし全ての者よ、永久(とわ)(とき)を眠る静寂(しじま)とならん──」

 

 シグルーンを中心に、周囲の大気の温度が急激に低下した。

 そのあまりの低温に大気中の水分が凍り、太陽光をキラキラと反射している。

 

「クロ、今っ!」

 

『ハイ!』

 

 白い呼気と共に上がるシグルーンの合図を受けて、クロの火炎息が止む。そして次の瞬間、

 

極限冷凍波(キルヴァース)!!」

 

 彼女が撃ち放ったのは原子の運動すらも停止させるほどの──否、熱とは運動によって生ずるものである。

 原子の運動をも停止させたからこそ、生じた超低温の冷気の波がリヴァイアサンを飲み込んだ。

 

『アアアアアアアアアァァァァァァァァァァーっ!?』

 

 リヴァイアサンの巨大な肉体が、瞬時に白く()てついてゆく。

 そして一拍置いた後、今度はその全身に無数の小さな亀裂が生じた。

 

 物質は温度の変化に合わせて、膨張と収縮を繰り返す。

 それは何十年と不変であるかのようにも見える岩石とて、例外ではない。

 それら岩石のように高い硬度を誇る物質でも、急激な温度変化による瞬間的な膨張、あるいは縮小の大変化には耐えられず、その構造を脆くすることがある。

 

 熱の変化に弱い硝子の容器に熱湯を注いだり、あるいはある程度暖めてからいきなり冷たい物に触れさせたりすると呆気なく割れてしまうのは、その最も代表的な例であろう。


 そして更に、生物のように固体と液体などの性質が違う物質が、複雑に入り混じった存在に生ずる変化は凄まじいものとなる。

 凍りやすい体液が凍結する一方で、運動することによって自ら熱を生み出すことができる筋肉などが未だに熱を保っている――という具合に。


 一瞬の内に数百度、あるいはそれ以上の温度差が体内に生じれば、それは物理的な切断にも等しい。


 温度差によって肉体組織の繋がりが切り離され、しかも凍結している部分は再生することすらできない。

 いかにリヴァイアサンの強固な肉体でも、致命的なダメージは避けられないはずだった。

 こうして彼女の鉄壁の装甲は、打ち砕かれることとなったのだ。


 この絶大な威力を発揮した魔法こそが、シグルーンにとって極大烈破と並ぶ奥の手とも言える術、極限冷凍波である。

 彼女とて、前回のリヴァイアサンの襲撃を教訓にして、何も対策を考えていなかった訳ではないのだ。

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