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―不撓不屈―

 一方、フラウヒルデもまた、リチャードの放った光線を完全に回避することができなかった。

 光線は彼女の右肩を貫き、彼女の足下にも炸裂する。

 結果、彼女はその両足に、かなりの深手を負うことになった。

 

 しかしそれでもフラウヒルデは倒れず、そして右手に持つ光烈武剣も手放しはしなかった。

 もっとも当分の間は剣を振り上げることも、そして走ることもできそうにはなかったが……。

 

(この身体で奴を斬らねばならんのか……ちとキツイな)

 

 戦況は一気にフラウヒルデの劣性となった。

 それは足と右腕が使えないばかりではない。

 

 リチャードは全身の目から、凄まじい威力の光線を撃ち出せる。

 もしも組み付かれた上でそれをやられたら、フラウヒルデには避けようがなかった。

 つまり彼と接近戦を行うことは、自殺行為にも等しいと言える。

 だが、対処法が無い訳でもない。

 

(いや、かえって弱点が増えた……)

 

 フラウヒルデは微笑する。

 微笑しつつも、周囲の動きに神経を集中させた。

 今彼女の周囲は、リチャードが撃ち出した光線による爆発によって、土埃に包まれていた。

 これでは視覚によって相手の動きを読むことは困難となるが、それはリチャードも同じだ。

 折角増えた視覚も、意味をなしてはいまい。

 

 その上、一度対抗策を講じられた「無形陣」を、フラウヒルデが再び使用する可能性をリチャードは考えなかった。

 たとえ使われたとしても、再び無差別攻撃を行えば簡単に破れる技だとたかをくくった。

 だから彼は、疑いもせずにフラウヒルデの気配に斬りかかった。

 

 だが、フラウヒルデにとっては、たとえ今後通用しなくなっても、今1度だけリチャードを騙すことができればそれでよかった。

 

(かかった!)

 

 リチャードが只の気配を斬りつけたその時、フラウヒルデは彼のすぐ真横に移動していた。

 それだけの至近距離であれば、土埃が晴れずとも相手の姿の詳細を辛うじて確認することができた。

 彼女は(あらかじ)め腰に()げた小型の鞄の中から、とある物を取り出していた。 

 それは、ありったけの手裏剣――タイタロスへの旅先で手に入れた10本だけではない。

 今までの人生で収集してきた、数十本を含む―― であった。

 その手裏剣の全てを、フラウヒルデは一斉に投げ放った。

 

 燕牙(えんが)――手裏剣はフラウヒルデの闘気に操られて、まるで燕のように宙を自在に飛ぶ。

 そしてリチャードの全身に浮かぶ、無数の目という目へと正確に突き刺さった。

 

「グアアァァァァ―― っ!?」

 

 リチャードは堪らずに悲鳴を上げる。

 たとえ鋼鉄の皮膚を持つ竜とて、眼球までもが鋼鉄の強度を有している訳ではない。

 むしろ眼球こそが、唯一の弱点だとも言える。

 だからフラウヒルデにとって、彼が目を増やしたことはむしろ好都合だった。

 

 無論、手裏剣の本数の都合もあり、彼の全ての目を封じることができた訳ではないが、それでも目から撃ち出される光線の脅威が格段に下がったことは間違いない。

 とは言え、戦いが長引けばそのダメージも再生され、再び脅威となるであろう。

 

「おのれェェェェェェっ! 

 小娘がァァァァァァっ!!」

 

 リチャードは(たけ)り狂った。

 人間を超越したはずの彼が、(ことごと)く人間に出し抜かれる。

 しかも相手は、数ヶ月前までは自身とは比ぶべくもない、(ちり)にも等しき矮小な存在でしかなかったはずだ。

 その相手にいいようにあしらわれるとは、この上ない屈辱だった。

 

「もういいっ! 

 死ねぇっ!!」

 

 リチャードは最大の力を込めた斬撃を撃ち放った。

 巨大な衝撃波と化したその攻撃は、フラウヒルデをいとも容易(たやす)く飲み込む。

 元より咄嗟の回避行動が可能なほど、彼女の脚の傷は癒えてはいない。

 

 直撃した――と、リチャードはほくそ笑む。

 が、その表情はすぐに驚愕に変わった。

 何故なら、彼の視線の先にはフラウヒルデがまだ立っていたのだから。

 

「馬鹿な、何故倒れぬ!?」

 

 倒れぬどころか、あの攻撃の直撃を受ければ形も残らなかったはずだ。

 なのにフラウヒルデは立っている。

 たとえ光烈武剣の「光盾」による防御が間に合っていたとしても、その反動までは相殺できない。

 

 常識的に考えて、右肩を破壊されているフラウヒルデに、反動を受け止めた盾を構え続けることができただろうか。

 また、脚に重傷を負っている身では、地に踏み留まることができずに、吹き飛ばされていたはずだ。

 

 それでもフラウヒルデはそこに立っていた。

 その肩と脚の傷は、前にも増して出血が酷い。

 そのことから想像できるのは、凄まじい精神力を支えにして、その傷ついた身体から普段通りの力を引き出したということだ。


 が、それがどれほどの負荷をフラウヒルデの身体にかけたのか、それは想像に(かた)くなかった。

 だが、それしか選択の余地は無かった。

 彼女はまさに今、追い詰められていたのだから。

 しかしだからと言って、彼女はまだ勝負を捨ててなどいなかった。

 

「……ふん、倒れぬさ。

 貴様のような外道を倒さずして、人々を守る騎士の私がどうして倒れられようか。

 この命無くそうとも、我らがアースガルには、これ以上の傷は付けさせぬ! 

 天に代わりて貴様に(ちゅう)を下すまでは、倒れられぬ!!」

 感想ありがとうございました。序盤の展開が遅いのはよく指摘されるのですが、大昔に書いたものなので、例えるなら現在の1クールで終わるアニメに慣れきっている人に、昔の2クールのアニメを観せるような感じになってしまっているのだと分析しています。次の機会があれば、序盤の構成は大幅に変えようと思っていますが……。

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