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―努力の才能―

「あの男と互角に渡り合うとは……!」

 

 メリジューヌ・タイタロスは息を呑んだ。

 彼女達が陣取っていた場所からやや離れた城壁が、突然に崩れ落ちたのはつい先程のことだ。

 アースガル城を守る防御結界の(かなめ)であり、邪竜による絶え間ない猛攻を受けていた彼女にとっては、新たな敵が出現したのかと大いに緊張を強いられることとなった。

 最早彼女達には、新手の敵を撃退できるほどの余力が殆ど残されていなかったのだから──。

 

 それでも敵が出現したのならば、無視することもできない。

 慌てて彼女達が現場に駆け付けてみると、そこには剣を交えるフラウヒルデとリチャードの姿がある。

 それは凄まじいまでの斬撃の応酬だった。

 

 かつてメリジューヌは、自身の実力ではリチャードには勝てないだろうと感じたが、今その想いを確信に変えた。

 最早強さの次元が違うとさえ感じる。

 しかしフラウヒルデは、そんな彼と互角に渡り合っていた。

 

「さすがはアースガルの一族……お強いですわね」

 

 メリジューヌは思わず、感嘆の吐息を漏らす。

 あの(・・)シグルーンの娘ならば、これほどの実力があるのも当然だと思えた。

 ところがメリジューヌの脇に立つアイゼルンデ・アースガルは、小さく首を左右に振った。

 

「……フラウは以前、あの男に2度も惨敗したそうです。

 いえ、その内の1回は勝負にすらならなかったと……」

 

「え?」

 

 その言葉にメリジューヌは、虚をつかれたような表情となる。

 今のフラウヒルデの姿からは、その事実が想像できなかったからだ。

 

「それからのフラウは、凄まじい修練を積んで来ました。

 それこそ一睡もせずに、何日も剣を振り続けるほどの無茶も珍しくはありません。

 同じアースガルの血を引く私でも、いえ、おそらくはお祖母(ばあ)様でさえも、そんな真似はできないと思います」

 

 そう語りながらフラウヒルデの戦いを見守るアイゼルンデの眼差(まなざ)しには、強い羨望の色が満ち溢れていた。

 

「……強いのは、アースガルの血ではなく、あの御方自身なのですね」

 

「……(わたくし)は、少々悔しくもありますがね」

 

 メリジューヌの言葉に、アイゼルンデは苦笑を浮かべながら(うなず)いた。

 

「殿下、もう少し後退した方が良いかもしれません。

 この戦いは、あまりにも激し過ぎる……」

 

 そんな従者――シンの言葉に、メリジューヌは静かに頷いた。

 

「ええ、私達には最早手出しできるレベルではありませんし、フラウヒルデ様もそれは望まないでしょう」

 

 と、メリジューヌ達はその場から更に数十mほど後退した。

 そして、その激しい戦いを見守ること数分――。

 拮抗していたフラウヒルデとリチャードの戦いに、変化が生じ始めた。

 彼女達の目には徐々にではあるが、フラウヒルデがリチャードを翻弄しているように見える。

 

「フラウが押し始めている……?」

 

 アイゼルンデはイマイチ釈然としない様子で呟いた。

 本来ならばフラウヒルデの優勢を喜ぶべきなのだが、何故彼女が優勢になっているのかが分からないようだ。

 

 両者共常人には及びもつかないレベルの攻防を繰り広げている為、アイゼルンデにもハッキリとした確証は無いのだが、少なくとも先程よりもフラウヒルデの動きが良くなったとも、リチャードの動きが衰えたとも思えない。

 それなのにフラウヒルデの攻撃がリチャードに命中することが増え、逆にリチャードの攻撃は元よりフラウヒルデに命中してはいなかったが、より大きく狙いを外すようになっている。

 

 だけど何故(なにゆえ)に?――アイゼルンデにはそれが分からなかった。

 だが、メリジューヌの唖然とした表情から察するに、彼女にはその理由が分かったらしい。

 

「……これほど変則的に、気配を操るとは……。

 なんという御方なのでしょう……!」

 

「気配を?」

 

 アイゼルンデは説明を求めるように、メリジューヌを見遣った。

 「気配を操る」──それが意味するところが、よく理解できなかった。

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