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―因縁の対決―

「ふん、なかなか耐えているな」

 

 彼は城壁の上から、メリジューヌ達の戦いぶりを眺めていた。

 それは黒髪黒服の、全身黒ずくめの男であった。

 

「だが、俺の手にかかれば、もう一瞬で終わりだ」

 

 男は(わら)う。

 人間には(あら)ざる野獣の如き凶暴な笑みを――。

 そう、彼は身体に竜の血を受け入れた魔人であった。

 その能力は既に、並の上位竜を上回る。

 

 彼――リチャードはメリジューヌ達に向けて右手の(てのひら)をかざす。

 そこからどのような攻撃が繰り出されるのか定かではないが、それが彼女達にとって致命的なものになることは間違いあるまい。

 最早彼には、人の命を奪うことに躊躇(ちゅうちょ)は無いのだから。

 

 しかもこの迫りつつある危機を、メリジューヌ達が察知した様子はなかった。

 次々に襲いかかる邪竜達への対処に精一杯で、100m近く離れた場所にある城壁を警戒する余裕などないようだ。

 

 そして、今まさに攻撃に移ろうと、リチャードが掌に力を込めたその瞬間、

 

「そこまでにしてもらおうか」


「っ!!」

 

 リチャードの背後に、人の気配が唐突に現れた。

 そして彼の背には、突きつけられた刃物の切っ先の感覚――。

 

(俺に接近を悟らせなかっただと……!?)

 

 リチャードの顔に緊張の色が走る。

 並の人間ならば、絶体絶命の状況だと言っても良かった。

 無論、今の彼は剣で背を貫かれた程度では死にはしないが、それでも彼の背後に現れた者が圧倒的に有利な状況を手に入れたことには違いない。

 

 しかしリチャードの背後を取ったその人物は、あろうことか自らその絶対的有利を手放した。

 彼の背に当てられていた刃物の切っ先は引かれ、そして「チン」と、鞘に収められる音が発せられる。

 リチャードは顔を憤怒の色に染め、ゆっくりと振り返った。

 

「どうやら、丁度良いタイミングで帰ってきたようだ」

 

「貴様は……!」

 

 リチャードの鋭い視線の先――そこにはフラウヒルデの姿があった。

 

「小娘がぁ……! 

 のこのこと俺の前に現れて、何のつもりだ……。

 今度は死んでもらうぞ!」

 

「できますかな? 

 今し方、私に易々(やすやす)と背後を取られたあなたに?」

 

 フラウヒルデの挑発的な言葉に、リチャードは怒り狂った。

 

「以前はこの俺に手も足も出なかった娘が、図に乗るなよっ! 

 今の俺はあの時よりも、更に巨大な力を得ている。

 今すぐ貴様のような卑小(ひしょう)な存在は、消し飛ばしてくれるわっ!!」

 

 急激に膨れあがるリチャードの闘気を受けつつも、フラウヒルデは悠然と腰の剣と刀の柄頭(つかがしら)に軽く手をかけるだけであった。

 

「フッ、私とてあの時とは違う」

 

「ほざけぇぇぇーっ!!」

 

 唐突にリチャードが放った熱衝撃波が、堅固な城壁をて粉々に打ち砕いた。

 その破壊の渦に、フラウヒルデも飲み込まれてしまったかのように見える。

 しかし――、

 

「!?」

 

 何処から発生したのか、大量の炎が渦巻くようにリチャードを取り囲んでいた。

 そしてそれらは一斉に彼に襲いかかる。

 

「クッ!?」

 

 リチャードは炎を浴びることに構わず、自ら炎に飛び込んだ。

 彼が身に宿すヴリトラの血は、炎に対する強い耐性を持っている。

 だからすぐに抜け出せば、あの場所にとどまっているよりはダメージが少ないだろうとの判断だ。

 

 事実、彼を取り囲んだ炎の層はそれほど厚くはない。

 突破も容易(たやす)いはずだった。

 しかし炎は予想以上に高熱であり、しかも彼の行く手を遮るかのように、炎の層は更に厚くなる。

 まるで炎自体に、意志が宿っているかのようだ。

 

「おのれぇっ!」

 

 リチャードは全身から大量の闘気を放出させ、自らを取り囲む炎を吹き散らした。

 それでも散り散りなった炎は再び集結し、彼の前に巨大な壁として立ちはだかる。


「……っ!!」

 

 だが、炎は唐突に消え失せた。

 

「……なるほど。

 『焔天』、おもしろい能力を持っている。

 まあ、この能力に頼るのはあまり(しょう)に合わんが」

 

 消えた炎の先にフラウヒルデの姿があった。

 先程のリチャードの攻撃でダメージを受けた様子はなく、ただ感心したように「焔天」の刃に見入っていた。

 

「きっ、貴様ぁ~!」

 

 リチャードは激昂した。

 フラウヒルデは先程彼の背後を取った時といい、今し方の炎の攻撃といい、有利な状況を手に入れてなお、すぐにそれを手放している。

 それはまるで、圧倒的に実力が劣る者に対して手加減しているかのようでもあり、彼にとっては凄まじい屈辱であった。

 

 そんなリチャードの心情を読み取ってか、フラウヒルデは真摯な視線をリチャードに送る。

 

「……油断は無用と分かったでしょう? 

 私はあなたを倒す為に、今日まで心血を(そそ)いで技を磨いてきた。

 いざ尋常に勝負を願いたい」

 

「……後悔するなよ!」

 

 リチャードが怒りを押し殺したような笑みを浮かべると同時に、彼の両腕はミシミシと音を立てて変質していった。

 やがてそれは巨大な刃と変じる。

 

「来い! 

 ……今の俺がどれほどの力を得ているのかを、見せてやろう」

 

 リチャードが放つの凄まじい殺気に晒されながらも、フラウヒルデは悠然と構えた。

 

「フラウヒルデ……()して参る!」

 

 確かな自信と、そして覚悟を秘めた笑みを浮かべながら、フラウヒルデはリチャード目掛けて駆けだした。

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