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―小さな援軍―

 一方、メリジューヌもまた苦境に立たされていた。

 竜巻の結界を維持させるだけの魔力は、まだある。

 しかしそろそろ攻め込んでくる邪竜の数は、ルーフの召喚した精霊や竜騎士達だけでは対処しきれなくなりつつあった。

 しかも――、

 

「行って!

 貫神槍(かんしんそう)──っ!!」


 唐突に自らの上空に出現した邪竜目掛けて、メリジューヌは手にした槍を投げ放った。

 槍は正確に邪竜の頭部を貫き、また彼女の手に戻ってくる。

 ここに至ってついに、この風の結界を形成しているのがメリジューヌだと邪竜達に嗅ぎ付けられたらしい。


 今までは結界内の状況がよく把握できなかったが為に静観していた邪竜達も、結界の外から直接彼女目掛けて転移し始めた。 

 こうなると結界を維持し続けることは、難しいだろう。

 

 だがこの風の結界が解かれ、無数の邪竜達が一斉にアースガル城になだれ込めば、それはアースガルの壊滅を意味する。

 最早いかなる防御手段も、無意味となるだろう。

 それだけは絶対に避けなければならないが、事態の進行は1秒たりとも待ってはくれない。

 

「!?」

 

 新たな邪竜が、メリジューヌの背後に出現した。

 

「くっ!」

 

 メリジューヌは短距離瞬間移動(ショートテレポート)を用いて、自身の背後に現れた邪竜の更に背後を取り、槍術(そうじゅつ)の奥義である神槍千嵐突(しんそうせんらんづき)を撃ち込んで瞬時に相手を(ほふ)った。

 そして再び結界の維持に集中しようとしたその刹那、彼女の左側面にも邪竜が姿を現す。

 いや、彼女の背後にも更に1匹。

 

(2匹っ!?)


 しかも蛇のように胴体が長い邪竜は、メリジューヌの視界を塞ぐように周囲を取り囲んだ。

 これでは短距離瞬間移動による脱出は、危険が大きすぎた。

 転移先の安全が確認できないまま転移をすれば、障害物に突っ込んで融合してしまうことも有り得るからだ。

 そうなれば即死である。


「くっ!!」


 仕方がなくメリジューヌは、障害物の無い上空へ転移する。

 そんな彼女の上空に、3匹目の邪竜が出現する。


「――っ!?」

 

 メリジューヌは声にならない悲鳴を噛み殺しながら、上空の邪竜目掛けて槍を振るう。

 その直撃を受けた邪竜はそのまま永遠に動かなくなったが、彼女の目掛けて落下してきている為、このままだと彼女は押しつぶされることになりかねない。

 しかもその巨体と翼が、またもや彼女の視界の大部分を塞いでおり、転移を阻害していた。


 転移で逃げられないのであれば、その身体を粉々に破壊するしかなかった。

 メリジューヌは、更に連続で槍を撃ち込む。

 これで取りあえずは、押しつぶされることはなくなっただろう。

 しかしそんな彼女の真下から、他の2匹の邪竜がメリジューヌに襲いかかってきた。

 

「くっ!!」


 その攻撃を回避することは、不可能に思えるタイミングだった。

 次の瞬間には鋭い牙か、あるいは爪で、メリジューヌの身体は引き裂かれることになるはずだ。

 

(お父様……!)

 

 覚悟を決めたメリジューヌの耳に、何かを引き裂くような音が響く。

 しかしそれは、メリジューヌの身体から発せられたものではなかった。

 

「――え?」

 

「殿下、お怪我はありませんかっ!?」

 

「メリジューヌ様っ!」

 

 茫然としつつ地面に着地したメリジューヌに、シンとアイゼルンデが駆け寄って来る。

 彼女を襲おうとしていた邪竜は、彼らに斬り裂かれ、既に事切れていた。

 

「あ、あなた達はっ! 

 住民達の警護を命じられているはずでは!?」

 

 そんなメリジューヌの言葉は、命令違反を(とが)めるでもなく、単純に疑問かるくるものであったが、たとえそれが咎める為のものだったとしても、「どのような罰を受けたとしても、これだけは譲れない」――そんな覚悟を秘めた表情でシンは答えた。

 

「しかし、殿下を矢面に立たせておいて、ジッとしてなどいられません!」

 

「それに斬竜剣がありますから、これを使わないのは勿体ですよ」

 

 と、アイゼルンデは斬竜剣を、誇らしげに頭上へと掲げた。

 本来ならば触ることすら許されないような機密兵器を手にして、気が大きくなっているようだ。

 勿論、何の為にその大きな力を使うのか、肝心な部分は忘れてはいないが。

 

「殿下が我々の為に、死力を尽くしていることは分かります。

 しかし皆の命を1人で背負い込もうとして、それに押し潰されてしまっては元も子もないでしょう。

 せめて殿下の命だけでも、我々に背負わせてください」

 

「そうですよ! 

 最早、戦力を出し惜しみしていられるような、状況ではありません」

 

「…………」

 

 メリジューヌには返す言葉がなかった。

 事実、彼女はかなり追いつめられていたのだから。


 しかし斬竜剣を手にしたとはいえ、シンとアイゼルンデの実力でこの戦いを生き延びることは難しいかもしれない。

 それでも彼らに頼らざるを得ない――そのことが悔しい。

 だが、同時に心強くもある。

 

「……分かりました。

 私の命、あなた達に預けますね」

 

「任せてください!」

 

 そうこうしている間に、再び邪竜が転移して来た。

 すかさずシンとアイゼルンデがその邪竜へ斬りかかるが、その間にも邪竜は次々と転移してくる。

 

 シンとアイゼルンデという新たな援軍を得ても、アースガルの危機的状況は緩和されてはいない。

 むしろ悪化の度合いは、大きくなっているとさえ言ってもいいだろう。

 

 それでもメリジューヌが操る竜巻の結界は、より大きな力を得たかのように、強く強く吹き荒れていた。

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