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―死力を尽くして―

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 風の結界内の戦況は、徐々に悪化しつつあった。

 シグルーンが外で敵の侵攻を抑えているとはいえ、結界内に侵入しようとしている邪竜の数はさほど減ってはいない。

 むしろ時間の経過と共に、風の結界への対策が整ってきているようだ。

 

 多くの邪竜達は、自らの身体を強力な防御結界で覆って、風の結界に突入してくるようになったのだ。

 これにより凄まじい風圧によって、ダメージを受ける邪竜の数は格段に減った。

 

 しかも結界内に侵入が成功した時点で、既に防御態勢が整っている。

 結果、ルーフの召喚した精霊達が、邪竜を仕留める確率が大幅に減少する。

 やはり結界に身を包んだ邪竜に対して、精霊達の魔法攻撃ではあまり大きな効果は期待できなかった。

 本来結界は、物理攻撃よりも魔法攻撃にこそ、強い耐性を持っているのだ。

 

 また、定まった実体を持たない精霊には、あまり大きな力の発揮はできなかった。

 人の姿のように見える彼らの実態は、実のところ小さな精霊が集合した群体のようなものであり、それ故に高度な力を操れるほどの知性が無い。

 より上位の精霊を召喚することができれば状況はまた違ってくるのだろうが、それを実行するには戦況が切迫し過ぎていた。

 

 そう、今現在のルーフは、このアースガル城の周囲に漂う精霊達に呼び掛けて、協力してもらっているに過ぎない。

 今ここに存在しない上位精霊を召喚するには、比べものにならないくらいの魔力と魔法儀式が必要だった。

 とてもではないが、今それを実行する余裕は無いのだ。

 

 また、ルーフ自身が操る攻撃魔法も、邪竜達の強力な結界に阻まれてしまい、なかなか決定的な効果を発揮できずにいた。

 勿論、より高レベル魔法を使用すれば、邪竜達の結界を軽々と破壊する自信はある。

 しかしそれほどの術の行使にはやはり時間がかかる為、それらの魔法はシグルーンの竜騎士団のサポートがあってもなお、滅多に使うチャンスが無かった。

 

 それでもルーフの防御魔法と回復魔法がなければ、既に味方側に死者が出ていてもおかしくなかった。

 やはり彼も守りの(かなめ)として、十分以上の活躍をしていると言える。

 だが――、

 

「ハアッ、ハアッ」

 

 ルーフの呼吸は荒かった。

 今回の戦いで彼は、既に数十回にも及ぶ各種の魔法を行使していた。

 常人ならばとっくに魔力が尽きて、倒れていてもおかしくない。

 精霊の血を引き継ぐ彼だからこそ、周囲の精霊達からの魔力供給を受け、未だに魔法を行使していられるのである。

 

 とはいえ、魔法の行使にはそれなりの体力も必要となる。

 その上、生死を()した戦いの中に身を置けば、心身にかかるストレスもかなりのものだろう。

 彼は今、かつてないほど疲弊(ひへい)していると言っていい。

 

 それでもこの場から、逃げ出すことなどできはしなかった。

 いや、逃げなければならない理由など、ルーフの頭の中には無かったのかもしれない。

 

「まだ――まだいける!」

 

 彼はそう自身を(ふる)い立たせ、目の前で邪竜の攻撃を受けて重傷を負った竜騎士を癒やす為に、呪文の詠唱を始めた。

 そんな彼の表情は必死ながらも、不思議と笑みも浮かんでいた。

 自身の力が誰かの命を守っている――そのことが嬉しいのかもしれない。

 

 だが、そんな彼の笑みは、次の瞬間戸惑いの色に凍り付いた。

 

「何でっ!?」

 

 ルーフが召喚した精霊達が、竜騎士の1人に攻撃を仕掛けた。

 更に、ルーフにも襲いかかってくる。

 ルーフは慌てて結界を形成して、精霊達の攻撃をやり過ごす。

 

「何でっ!?  

 どうしてなの!?」

 

 混乱して叫ぶルーフ。

 そんな彼の声を(さえぎ)るように、何者かの声が周囲に響き渡った。

 幼く、高い声音──。

 それでいて、何か逆らいがたい神聖さを秘めた声だった。

 

「精霊がこの世界を構築するシステムのような存在である以上、この世界を司っていた神とその眷属に従うのは当然のことだよ」

 

「……!?」

 

 ルーフは声のする方に視線を送った。

 

 そこには、7~8歳くらいに見える少年の姿があった。

 しかし一見して、ただの少年ではないことが分かった。

 その少年は空中に浮いていた。

 背には漆黒の翼もある。

 

「ねえ、君。

 ボク、退屈だから遊びに来たんだけど、君が相手をしてくれないかな?」

 

 少年――ラーソエルで無邪気な顔で笑う。

 だがルーフは、笑い返していられるような場合ではなかった。

 彼にとっての本当の戦いは、今この瞬間に始まったのである。

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