―最強騎士団―
「あらら、ちょっと服が小さいわね。
まあともかく、ふっかーつっっ!!
凄くいい感じだわ!」
元の姿に戻ったシグルーンは、すこぶる調子が良さげだった。
(何故あの薬の飲み方で、元気になれるのでしょうか……?)
メリジューヌはシグルーンのあまりの非常識さに、思いっきり呆れた。
と、同時に麻薬中毒者と似たような精神状態になっていやしないかと、もの凄く不安になった。
しかし、そうこうしている間に――、
1匹の邪竜が風の結界を抜けて、城の上空に出現した。
あまりの凄まじい風圧を受けて、その翼は引き裂かれ、体中に傷を負っているが、結界の突破に成功したことには違いない。
「やはり、完全には防ぎきれないっ!」
竜の侵入を許してしまったことに、メリジューヌが怯みかけたその瞬間、
唐突に竜の身体は真っ二つに割れ、墜落する。
「よし、この調子で侵入してきた竜を各個撃破していけば、かなり時間を稼げるわ」
いつのまにかシグルーンが斬竜剣を手にして、振り回している。
今し方の竜も、彼女が剣から放った衝撃波によって引き裂かれてしまったようだ。
(いつの間に……)
ルーフとメリジューヌは、シグルーンのあまりの素早さに唖然とした。
「さあ、これからが戦いの本番よ!
こうなれば、長年温存してきた虎の子を投入するわ!
出でよ、我が最強の竜騎士団よっ!!」
「!?」
そんなシグルーンのかけ声と共に、彼女の周囲にはいくつもの巨大な影が出現した。
どうやら魔法で転移して来たらしい。
「竜!?」
まさしくそれは、竜の姿であった。
皮膚の色や体格、形態などが個体ごとに異なるが、皆同系色の武具で武装した20匹ほどの竜がシグルーンを取り囲んでいる。
「な、なんですか、これ!?
一体何処から出てきたんですか!?」
度肝を抜かれて震え声なルーフの問いに、シグルーンはあっさりとした調子で答える。
「ああ、飼っていたのよ。
有事を想定して戦闘訓練もしてあるから、かなり頼りになるわよ」
と、言いつつ、彼女の右手の人差し指は地面を指していた。
(……地下迷宮で竜を飼っているって話……本当だったんだ……)
ルーフは思わずシグルーンから半歩引いた。
メリジューヌも、
「……以前フラウヒルデ様が、アースガルには武力が皆無に近いと、仰っていましたのにぃ……」
と、ちょっと傷ついたような表情で、首を軽く左右に振っている。
このアースガルとタイタロスの間で取り決められていた不可侵条約を、根底から揺さぶりかねない、ある種の裏切り行為ともいえる現実に直面したのだから無理もない。
勿論、フラウヒルデも嘘を言ったつもりは無かったのだろう。
なにせ彼女も、この竜騎士団の存在は知らなかったのだから。
悪いのは全部シグルーンである。
こんな国の1つや2つを軽く壊滅させられるような兵力を保有しておきがら、何食わぬ顔でしらばっくれていたのだから侮れない。
「やっぱり隠し事をしてましたね……」
メリジューヌとルーフは、この国を襲う邪竜よりも、まずシグルーンの存在に恐怖した。
「まあともかく、この結界もさすがに外側から竜の攻撃魔法や息を何発も撃ち込まれたら一溜まりもないからね。
敵を攪乱する為にも私が直々に打って出るわ。
10騎、ついて来い!
残りは何が何でもこの城を死守せよ!」
そう言うなり、彼女は勢い良く宙に飛び上がった。
それに遅れることなく、まるで最初から取り決められていたかのように、10匹の竜が彼女に続く。
そして更に次の瞬間、結界の外に転移したのか、その姿は瞬時に消え失せた。




