―流星乱舞―
それから半日ほど後、小島の浜辺にはザンとフラウヒルデ、そして竜の姿に戻ったファーブの姿があった。
陽は既に落ちかけ、周囲は闇に染まりつつある。
しかしそれでも遠いアースガルへ向けて、出発しなければならない者もいる。
フラウヒルデはバルカンより譲り受けた剣と刀の――魔法の力を秘めた武具を使用する為のコツをザンに教えてもらったので、もうこの島でやるべきことは残っていなかった。
そんな訳で彼女は、一足先にファーブによって国まで送り届けてもらうことになったのである。
今のアースガルには、1人でも多く戦える者が必要だろうという判断であった。
「それじゃあ、気を付けてな」
「ええ!」
「ファーブも、できるだけ早くフラウヒルデを送ってやってくれ」
「分かっているって」
ザンの言葉に、フラウヒルデとファーブが笑顔で応えた。
これからフラウヒルデは、ファーブの背に乗ってアースガルへの帰路に就く訳だが、本当ならばファーブの転移魔法を使えば、アースガルまでは一瞬である。
しかし彼の魔力はまだ、アースガルまで一気に転移できるほどには回復しておらず、それが可能になるまではあと1日か、あるいは2日を要するだろう。
それならば彼が飛翔して移動しても、アースガルへの到着時期はさほど変わらない。
むしろ飛翔してある程度距離を稼げば、この島から一気に転移するよりも少ない魔力で転移することが可能となる。
だからファーブが飛翔する間に魔力をある程度回復させることができれば、より早くアースガルへ到達することも可能だろう。
また、これから大規模な戦闘も想定されるので、魔力を温存できるのならばそれにこしたことはない。
「本当はおじさんの造った、転移の術を封じた指輪を使う方が早いんだけどね。
一個しかないからなぁ」
竜であるファーブでさえも、簡単には転移できない距離を飛べるだけの魔力を秘めた指輪である。
それは世界に1つしか無いと言えるほど貴重なものだ。
その指輪は、ザンが帰る時に使用することになった。
「じゃあ、とにかくみんなのことを頼む」
「はい!」
ザンの言葉にフラウヒルデは大きく頷いた。
「では、行って参ります!」
と、フラウヒルデがファーブの背に飛び乗ろうとした瞬間──、
「あ……!」
彼女達は夜空に幾つもの光の筋が流れるのを目撃した。
その正体はどうやら流星群のようであった。
稀にしか見られぬ神秘的な光景に、一同は目を奪われた。
だが、その表情は一様に硬い。
何故かその流星群に、不吉なものを感じてならなかったのだ。
そしてその直感は、決して間違いではなかった。
同時刻――とある国のとある都市で――。
夕暮れの中、多くの人々が家路へと急ぐ。
その中には遊び疲れた子供達の姿もあった。
そんな子供達の1人が、何気なく空を見上げる。
仕事に疲れた大人達には空を見上げ、そして星が綺麗だと思う余裕など無いのかもしれない。
だからそれに気が付いたのは、その子供が最初であった。
「わぁ……流れ星だぁ」
そんな歓声に他の子供達が、そしてその子供達が上げた歓声につられて周囲の大人達も空を見上げた。
誰もが息を呑むような美しい光景であった。
幾筋もの光が空を流れてゆく。
が、数瞬後、今度は空を見上げた誰もが一斉に気が付いた。
空に流れる光のいくつかは、確実に自分達に向かって墜ちてきていることに。
誰もが悲鳴をあげる暇すら無く、次の瞬間には凄まじい爆音が、その都市だった地の全域に響き渡っていた。
この時、これと同様の地獄が世界中に出現した。




