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―バルカンの工房―

 バルカンに続いてザン達が足を踏み入れた坑道は、かなりの奥行きがあるようだった。

 彼がここに住み着いて約200年、その間に彼が絶えず坑道を掘り進めていたのだとすれば、その長さは数十kmに及んでいても不思議ではあるまい。

 

 しかし入り口から少し進むと、枝道が現れる。

 どうやらそのすぐ奥が、彼のねぐらとなっているようだった。

 

 そのバルカンの部屋……というか、工房も兼ねているであろう場所に辿(たど)り着くと、そこにはところ狭しと武器や防具の(たぐ)いが並べられていた。

 その手の品が大好きで、実際に収集もしているフラウヒルデは、感嘆の溜め息を()く。

 

 バルカンはザンにこれまでの経緯を聞かされた後、黙して折れた斬竜剣を見つめていた。

 しかし不意に、溜め息混じり口を開く。

 

「ふん……邪竜王にか……。

 しかし、これを直せだと? 

 こうまで破損してしまっては、最初っから造った方が(はえ)ぇぞ?」

 

 彼の言葉通り、刀身が半ばから折れて消失した剣だ。

 新たに材料を継ぎ足してやる必要がある。

 しかしただ継ぎ足しただけでは、その結合部分の強度はどうしても脆くなってしまう。

 そもそも以前と同じ強度では、また再び折られてしまうことになりかねないのだ。

 

 それが(ゆえ)に、以前よりも更に高い強度を剣に付与する為には、かなりの手間暇をかけて刀身を鍛え直す必要があった。

 最初っから造り直した方が早いというバルカンの言葉は、決して誇張ではない。

 

 それに斬竜剣は、魔法の力を付与された剣でもある。

 その機能を正常に働かせる為には、形状だけを元に戻せばいいという物でもなく、魔術的な処理も必要だ。

 

「なんなら、斬竜剣はまだ何振りか手元にあるが……? 

 勿論、特注のお前の剣よりも、質は落ちるがな……」

 

 しかしザンは、

 

「いいや、その剣を修理してほしいんだ」

 

 と、剣の修理を望んだ。

 

「急ぐんじゃないのか?」

 

「ああ、急ぐ。

 でも、今までこの命を預けて来た剣だ。

 折れてしまったからといって、そう簡単に捨てられるものじゃないよ」

 

 ザンのその言葉に、バルカンはニヤリ、と笑う。

 まさに聞きたかった答えを、得たような心持ちだったのだろう。

 

「いいだろう、直してやる!」

 

「あ、ありがとう。

 それとフラウヒルデも剣を折っちゃって、新しい武器が必要なんだ。

 何か(ドラゴン)に対抗できるような、武器を貰えないかな?」

 

「いいぞ。

 その辺にある物から、好きな物を持っていきな。

 ただし、自分で選ぶんだぜ。

 あんたも一端の戦士なら、己にとってどれが最も相応(ふさわ)しいのかが分かるはずだ。

 もしナマクラを引いちまっても、交換は受け付けないからな。

 見る目の無い奴には分相応ってものよ」

 

 と、バルカンは気前よく承諾した。

 武具は優れた使用者に活用されて、初めて価値が生じると彼は考えているようで、それ故に対価を要求するつもりもないようだ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 許可を得たフラウヒルデは、深々と頭を下げる。

 が、新たな武器を得ることをかなり楽しみにしていたようで、いそいそと武器の選別に取りかかった。

 どうにも分かりやすい娘である。

 

 ついでにファーブも暇潰しなのか、周囲の武具を見て回る。

 そして、とある剣に目を留めた。

 

「お、これは前にシグルーンが話していた、ザンの母親が使っていたっていう剣じゃないのか?」

 

「うわっ!? まさか『ラインの黄金』ですか!? 

 竜との戦いの中で失われたはずの、ベルヒルデ様の愛剣が何故ここに!?」

 

 フラウヒルデは、ファーブが発見した黄金(こがね)色の刀身の剣を目にして驚愕した。

 確かにその剣は、シグルーンが建てた「ベルヒルデ記念館」に所蔵されている「ラインの黄金」のレプリカとされる物と酷似していた。

 しかし――、

 

「ああ……俺が竜王に雇われる前に造ったものだが……。

 100振りくらい造ったから、探せばそこら辺にまだあるぞ」

 

「……伝説の名剣が……100……。

 あ、ありがたみが……」

 

 ことも無げなバルカンの言葉に、フラウヒルデは驚愕転じて愕然とする。

 

「なに? あの剣、おじさんが造ったの? 

 へぇ~、こんな偶然もあるんだなぁ。

 母様、あの剣で火蜥蜴(サラマンダー)を倒しかけたって話だよ」

 

 そんなザンの言葉を受けたバルカンは、

 

「いや、あの剣には、竜を斬れるだけの強度は無いはずなんだがな……」

 

 苦笑気味に髭面を歪ませた。

 過去の作品が、自らの意図したよりも高い力を発揮した――それは一見喜ばしいことことのようでもあるが、ある意味では作品の能力を把握しきれなかった彼の未熟さを証明する物でもある。

 複雑な心境にもなるというものだ。

 

「で、どうするよ。

 その剣に決めてしまうのかい?」

 

 そう問われて、「ラインの黄金」に見入っていたフラウヒルデはハッと我に返った。

 確かにこの剣ならば、彼女が今まで使っていた物よりも数段質がいい。

 彼女の常人離れした身体能力で振るえば、かつての使用者であったベルヒルデ以上の攻撃力を発揮することも可能だろう。

 

 しかしベルヒルデも竜との戦闘の最中に、この剣を粉々に破損させてしまったことを考えれば、これからより一層激しくなるであろう邪竜達との戦いにこの剣では少々……いや、かなり心許(こころもと)ない。

 

「い、いえ……もう少し見極めたいと思います」

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