―鍛冶の神―
バルカンはその身の丈が精々160cm未満と、成人男性としては背が低い部類に入る男であった。
しかし、その幅は厚い。
まるで樽のような胴体をしている。
ザンが「大地の妖精族みたいな人」と言ったのも頷ける。
いや、まさにそのものの姿をしている。
あるいは本当に、大地の妖精族の血を引いているのかもしれない──と、思わせるものがあった。
また、その無骨であろう顔も、年齢が判別しにくいほど濃く髭に覆われていた。
まあ、声から壮年の男なのでは無いかと想像できるが、外見からは正体のよく知れない男であった。
「お前さんがここに来るのは、随分と久しぶりじゃな。
一体どうしたというんじゃ?」
「ああ、おじさん実はね……」
「いや、ちょっと待て。
言わずとも分かるぞ」
「そ、そう?」
ザンの顔に戸惑いの色が浮かぶ。
バルカンが自信満々の笑顔をしている時点で、何か大きな勘違いをしているような気がしてならなかった。
なにせ彼女達は、別にめでたいニュースを持ってきた訳ではないのだ。
その来訪理由を彼が本当に分かっているのならば、もっと深刻な顔をしていてもいいはずである。
「お前がここに来た理由はズバリ、子供の顔を見せに来たのだな。
そうかぁ……ついにお前も母親になったのか……」
と、感慨深げに語るバルカンの前で、ザンはキョトンとしていた。
「子供……?」
暫くして何やら思い当たったザンは、ゆっくりとフラウヒルデやファーブの方を見遣る。
なるほど、彼女と同様に銀髪だ。
フラウヒルデに至っては、瞳の色までもが同じである。
「違う、違うっ!
これ、私の子供じゃないよ!
従妹と、それにファーブだっ!」
「従妹って、お前……」
と、バルカンが浮かべた怪訝な表情も当然だろう。
本来、200年以上も生きているザンに新たな従姉ができることなど、義理の関係でもなければ不可能である。
しかしザンとフラウヒルデの間には、確かな血縁を感じさせるのだから、バルカンが困惑するのも当然である。
「今は詳しい話を省くけど、母方の叔母が生きていたんだよ。
大体、こんなに大きくなってから、子供を見せに来るなんて変じゃないか」
ザンはかなり心外な様子であった。
あまつさえ、
「もう……私にこんな大きな子供がいる訳ないだろ……全く」
などとぶつくさ言っている。
当然の如く、
「あの……従姉殿は、母上と大差ない年齢では……?」
と、フラウヒルデの突っ込みが入った。
ファーブも大仰に頷いている。
そう、ザンには曾孫の、更にそのまた孫がいたって不思議ではない年齢なのだ。
「うるさいな、もうっ!
とにかく……そんなことよりおじさん、剣を直してほしいんだ。
できるだけ早急に!」
「なんだ……剣の修理か。
たかだが数十年で、修理が必要になるほど貧弱に造ったつもりはなかったのだがな……。
どれ、見せてみろ」
バルカンはザンから渡された剣を暫し眺めていたが、その表情は徐々に厳しくなっていった。
「ふん……刀身を折るのならまだしも、砕くかよ……。
昔の作品とはいえ、まだまだ俺も甘ぇってことかい……」
バルカンは苦笑気味に顔を歪め、そしてザン達に背を向けて坑道の入り口へと向かう。
「……来い。
詳しくは中で聞こう」
無論、ザン達はすぐに彼の後に続いた。




