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―剣の再生―

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「やはり……帰還してはいないんですね、クロは……」


 シグルーンの反応を見て、ザンはその事実を悟った。

 

「私をアースガルに送還した後、あなた達のサポートをする為に城へ潜入したはずよ。

 その後のことは、私にも分からないわ」

 

 と、シグルーンは小さく嘆息した後、静かに瞑目する。

 

「……私達をかばって、邪竜王の魔法攻撃に飲み込まれたんです……。

 その後は私達にも、もう分かりません。

 生き延びるだけで精一杯でした……」

 

 ザンは沈鬱な表情で告げた。

 

「散々だったようね……」

 

 詳細が分からなくとも、皆の顔を見ればシグルーンにもそれくらいは察することができた。

 と同時に、今が落ち込んでいられるような場合ではないことも──。

 敵がザン達を退けたということは、世界を破滅に追い込みかねないほどの危機的状況が、未だ継続しているということでもあった。

 

「……これからどうするつもりなの?」

 

 シグルーンは鋭い視線をザンに送る。

 しかし、ザンも気圧(けお)されることなく、その視線を見つめ返す。

 

「まず、剣を折られちゃったので、それを直さなきゃなりませんね」

 

 ザンの言葉にシグルーンは(うなづ)きつつ、小さく微笑んだ。

 剣が必要だということは、彼女からはまだ戦う意志が失われてはいないということだ。

 

 シグルーンもそれでいいと思う。

 最早、戦いから逃げても仕方がない。

 いや、もう逃げ場など無い。


 遅かれ早かれ、破壊と死が世界を蹂躙(じゅうりん)するだろう。

 今は戦い、そして勝利しなければ未来は無いのだ。

 

「でも、斬竜剣を修復するなんてことができるの? 

 私もその剣の構造を調べて、自分で造れないか試してみたことがあるけれど、結局上手くいかなかったわ……。

 もの凄く複雑な造りをしているのよ?」

 

「ええ、私も斬竜剣の構造はよく分かりません。

 でも、製造した本人ならば問題ないでしょう」

 

 そんなザンの言葉に、シグルーンは小首を傾げた。

 

「それ、斬竜剣士が製造したものじゃなかったの? 

 だって、あなた以外にはもう……」

 

 そこまで言葉にして、シグルーンは口を(つぐ)んだ。

 「滅びた」とは、たとえ事実だったとしても、ザンの心情を想えばあえて口にする必要の無い言葉だ。

 

「いえ、実は1人だけ生きています。

 ……とは言っても、私達と厳密には違うらしいんですけど……。

 だから邪竜王の呪いの影響も受けなかった訳ですし。

 もう数十年以上会っていませんけど、まだ生きているはずですよ」

 

「で、その人は何処にいるの?」

 

「……ねぐらを変えていなければ、ずーっと東のエレベスタ海の真ん中の孤島ですけど……」

 

 ザンのその言葉にルーフを除く一同は、顔を引き()らせた。

 そこまでの道のりは普通に陸路を歩き、そして船で海を渡っていけば、軽く2~3年はかかるであろう距離だ。

 それ故に最低限の学校教育しか受けたことが無いルーフに至っては、そんな縁もゆかりも無い遠方の土地の知識など全く無かったほどだ。

 とにかく遠い。

 

 転移魔法を使うにしても、それだけの距離を跳ぶ為には膨大な魔力を必要とするだろう。

 普通の術者では、一度の術の行使でそこまで到達することはまずできない。

 小さく嘆息しているファーブの様子からも、一万人近い人間を転移させたばかりの彼には、少々キツイ距離であるらしい。

 

 だが、ザンは今にでも旅立ちそうな雰囲気だ。

 恐らくじっとしていることが、耐えられないのだろう。

 何かをして気を紛らわせていなければ、本当は今も泣きたい気持ちで一杯なのかもしれない。

 

 だから、ファーブも(あきら)めたように嘆息する。

 ザンが「いますぐ行く」と言えば止められないし、止める気もないからだ。

 

「そう……遠いわね……。

 私はこんな身体だから、ついてはいけそうにはないわ……」

 

 シグルーンは小さく嘆息する首を左右に振る。

 

「もう……後のことはあなた達に任せるわ。

 でも、気を付けてね? 

 何が起きてもおかしくない状況だから」

 

「はい、心配しないでください。

 きっとすぐに戻って来ますから」

 

 ザンは力強く頷いた。

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