表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/430

―到 達― 

 9章のプロローグなので短めです。

 広大無辺の如く焦土が広がっていた。

 辺りには焼き焦げた大地と空以外には何も見えない。

 

 いや――、

 焦土から5mほど上空に、何かが揺らいでいる。

 焼けた大地によって熱せられた大気が発生させた、陽炎(かげろう)(たぐ)いではないだろう。

 何故ならば、その揺らぎは渦を巻いていたのだから。

 しかも平面的にだ。


 それはまるで、空に何らかの映像を投影しているかのようにも見えた。

 本来は起こりえぬ現象である。

 そして起こりえぬ現象は更に続く。

 空間に生じた渦の中心――そこより何者かが浮かびあがってくるのだ。

 そして、30分近い時間をかけて、それ(・・)は完全にこの世界に姿を現した。

 

 それはきょとんとした顔で周囲を見渡し、一拍遅れて大きく深呼吸をする。

 まるで生まれたばかりの赤子の産声のようにも見えるそれは、事実この世界に()でて初めての呼吸だった。

 

 暫くして、それはまだあどけない顔にかすかな笑みを浮かべる。

 無邪気なように見えて、その裏側に残虐性を秘めた笑みは、その幼さ(ゆえ)だろうか。

 

「ふ~ん、予定よりちょっと早く着いたみたいだね。

 誰かが立て続けに空間を歪曲させて場が不安定になったから、()抜けが楽になったってところかな」

 

 それは見た目の幼さにはそぐわない、高い知性の光を目に宿し、薄暗い雲が(よど)む空を見上げて、更なる笑みを顔に浮かべた。

 空の雲は急速に流れ、そして増殖しながら灰色を増し、その大気の不安定さを物語っている。

 また、かすかに灰のような物が大地に降り(そそ)いでおり、それは既にことが起こった後だということを示していた。

 

「もう始まってるんだ」

 

 それは背中の一対の翼を広げ、空に舞い上がる。

 

「さぁ~て、早くお仕事を終わらせて……その後は何して遊ぼうかな?」

 

 それは陽気に笑いながら宙を舞う。

 くるくると回転したり、急降下と急上昇を繰り返したりしながら、自らの(あるじ)と同種の気配を放つ存在のもとへ向けて、楽しげに、しかしおそろしく速く飛んでゆく。

 

 仮にその姿を目撃した人物がいたとするのならば、その者はどのような想いを抱いただろうか。

 多くは(おそ)(うやま)いの念を抱いたに違いない。

 何故ならばそれは、明らかにある存在の姿に酷似していたのだから。

 神話に伝わる、神の使徒――天使の姿に。


 ただそれは、翼が漆黒の色に染められていることを除けば──だが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ