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―そして再び―

 今回で8章は終わりです。まあ、全然決着していないけど。

「200年か……。

 スマン、随分と寂しい想いをさせてしまったんだな……」

 

 ベーオルフは娘の頭を優しく撫でて微笑む。

 するとゆっくり父の顔を見上げたザンは、その懐かしい笑顔に感極まったのか、父の胸にすがりついたまま嗚咽(おえつ)号泣(ごうきゅう)へと変えた。

 

 そんな父娘(おやこ)の姿を、ファーブとメリジューヌは感慨深く見守っている。

 

「……沢山の命が奪われた戦いでしたが……それでも、この結末には少しは救われたような気がします……」

 

 と、メリジューヌは小さく安堵の吐息を漏らす。

 ファーブも、

 

「そうだな。

 ちょっと予想外の展開だけど、ザンにとって悪くは無い結末だよ」

 

 と、軽い口調で応じた。

 

(って……そう言えば、ルーフ達は無事だっけかな? 

 とにかく斬竜王が生き残った理由とか、問題はまだまだあるか……)

 

 先のことを思うと問題はまだ山積しているが、それでも200年ぶりの親子の再会を目の前にして、その場の空気はわずかに(なご)んだ。

 しかし――。

 

「……父様?」

 

 ザンは怪訝(けげん)そうに、父の顔を見上げた。

 その身体(からだ)が小刻みに震えていたからだ。

 娘との再会に感極まったが(ゆえ)なのだとも思えたが、何かが違うとザンは感じた。

 

 ベーオルフは激しい動悸に耐えているかのように、顔を苦しげに歪め、ついには床に(うづくま)る。

 

「父様? 

 一体どうしたの!?」

 

 ザンは慌てたように父の背をさする。

 そんな彼女をベーオルフは、手で振り払うように遠ざけた。

 

「来るなっ!」

 

「と、父様……?」

 

 父のあまりの剣幕ぶりに、ザンはただただ困惑するばかりだ。

 

「クソっ! 

 俺の身体から出て――」

 

「!?」

 

 突如ベーオルフの身体から、凄まじい勢いで妖気が立ち上った。

 そのあまりの妖気の放出量に、彼の身体を包む鎧は内側から弾け飛び、空に舞い上がる。

 ザンも思わず10mほど後退(あとずさ)った。

 

「こ……これは!?」

 

 妖気の中で、ベーオルフはゆらりと立ち上がった。

 何故かその口元には、禍々(まがまが)しい笑みが張り付いている。

 

「あは……あははは……」

 

 そしてベーオルフは、小さく含むように笑い声を上げた。

 

「あははははははははははは」

 

 笑い声は徐々に大きく、そして甲高くなっていく。

 それは最早男性の出せる声質ではなく、まるで女性のようだ。

 

 いや、声だけではない。

 鎧を失って露わとなった彼の筋肉質の裸身は、見る見る間に細く、かつ丸みを帯びたシルエットへと変じた。

 また、彼の逆立つ黒髪は、以前の数倍も伸び、そして金色へと変わる。


 ベーオルフの身体はわずか1分余りで、ザン達の見知らぬ女性の姿へと変じた。

 いや、うつむき加減の顔が上げられると、そこには何処か見覚えのある入れ墨が施されているのが見て取れた。

 そして、先程までの笑い声も、今までに何度も聞いてきたものだ。

 

「ま……まさか……」

 

 ザンはかすれた声で呻いた。

 女はそんなザンの表情を眺め、そして勝ち誇ったように(わら)う。

 

「くっくっく……何も新しい身体を、(つく)る必要など無かったようじゃな……。

 ここに我が血に支配された……しかも世界最強の身体があるとは……。

 私は実に幸運に恵まれておるようじゃ」

 

「まさか、お前はエキドナっ!?」

 

「違うな」

 

 女はゆっくりと首を左右に振る。

 

「我が名はティアマット。

 邪悪なる竜を統べる王よ──」

 

「邪竜王……っ!!」

 

 ファーブは震える声で、その名を(つぶや)いた。

 神々の時代を終えてより十万年にも及ぶ歴史の中で、最も邪悪とされた存在の名を──。

 

「ふっ……復活に200年もかけた甲斐があった。

 こんなに良い身体が手に入るとはな……。

 そなたの父の身体は、私が貰い受けたぞ。

 どうじゃ、悔しかろう? 

 あははははは……あーっはっはっは」

 

(そんな……ヒイナギのおばさんに続いて、父様まで……)

 

 高らかなティアマットの哄笑が響く中、再会の喜びを(ことごと)く絶望に塗り替えられたザンは、頭の中が真っ白になっていくのを感じた。


 


 かくしてかつて世界を破壊し尽くした大戦は、200年の時を超えて再び始まりの時を告げたのである。

 次回から9章……ではなく、何回か番外編をやります。

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