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―捕食する者―

 メリジューヌはエキドナのおぞましい姿を前にして、身体が(すく)んで動けなくなってしまいそうになるのを、必死で(こら)えた。

 ここで恐怖に(おび)えてしまい、ただの傍観者になってしまえば、何の為にこの場に来たのか分からない。


 だからメリジューヌは意を決すると、床に突き刺さった斬竜剣を引き抜き、それを手渡そうとザンの元へと駆けだした。

 

「小賢しい小娘が、今更しゃしゃり出るでないわっ!」

 

 エキドナがそう吠えた瞬間、彼女の腹部の牙は瞬時に十数mほど伸びて、メリジューヌに襲いかかる。

 

(かわせないっ!?)

 

 回避不能のタイミングだと悟り、メリジューヌは思わず覚悟を決めた。

 そんな彼女を、何者かが真横から突き飛ばす。

 

「!?」

 

「ザン!!」

 

 ファーブの悲鳴が上がる。

 メリジューヌの身代わりとなったザンは、体中をエキドナの牙に貫かれていた。

 

「リ、リザン様っ!」

 

「大丈夫だ……。

 急所は外してある……」

 

 ザンは口では「大丈夫」などと言ってはいるが、その口調は苦しげであり、傷口からは大量の血液が溢れ出ている。

 その負った傷は、かなり深いに違いない。

 

「し、しかし、(わたくし)なんかの為に……」

  

「気にしなくてもいいさ……。

 これ以上私の目の前で誰も死んで欲しくないから、私がそうしたかっただけだ。

 それに……」

 

 ザンは息絶えたヒイナギへと視線を送る。

 

(それにヒイナギのおばさんは、もっと痛かったはずだ……。

 こうしておばさんの痛みを、何分の一でもいいから味わっておかなきゃ、私はおばさんを救えなかった自分を許せそうにない……!)

 

「リ、リザン様……」

 

 メリジューヌはその時のザンの顔にを見て、戦慄を覚えた。

 表情こそ静かであったが、だからこそ彼女の怒りと悲しみの深さを、(うかが)い知ることができるような気がしたのだ。

 あるいはメリジューヌが彼女に感じた畏怖の念は、エキドナからのそれよりも大きかったかもしれない。

 

「!?」

 

 その時、ザンの身体を貫く牙が(ちぢ)み、彼女の身体をエキドナの方へと引き寄せていく。

 

「少々順番が狂ってしまったが構わぬ。

 まずはそなたから喰らってくれようぞ!」

 

 エキドナは、わずか一口でザンの半身を食い千切ってしまいそうなほどに、大きく腹の口を開く。

 

「クッ!」

 

 ザンは何とか踏みとどまろうとしたが、エキドナの牙は彼女の身体の奥底にまで深く食い込んでいる。

 無理に逆らえば、体内を更に深く傷つけられることになりかねなかった。

 結局ザンはなすがままに、エキドナの元へと引き寄せられてゆく。

 

「リザン様っ」

 

 とっさにメリジューヌは、斬竜剣をザンへと投げ渡した。

 

「……スマン!」

 

「……! 悪あがきはおよしっ!」

 

 ザンが剣を手にするのを見たエキドナは、すぐさま乳房が変化した口から、勢いよく粘液質の液体を吐き出した。

 液体はザンの頭上に降り注ぐ。

 

「!!」

 

 ザンは自らを貫く牙を剣で叩き降り、降り注ぐ液体から逃れる。

 その回避は殆どギリギリであったが、液体を一滴も浴びることが無かったのは幸運だと言えた。

 

 目標を外して床にまき散らされた液体は凄まじい勢いで白煙を上げながら、瞬時に大穴を床に穿(うが)つ。

 まさに恐るべき溶解力であった。

 その瞬間的に物質を溶解させる様は、あたかも液を浴びた部分を切り取り、別の空間に運び去ったかのようにさえ見える。

 

 その溶解液を人体の要所――たとえば頭に一滴でも浴びれば、いかにザンとて瞬時に絶命していたかもしれない。

 だが、ザンはそんなエキドナの攻撃には微塵も(ひる)んだ様子を見せず、鋭い視線を彼女へと注ぎ続けていた。

 

「……あんただけは、絶対に許さない!!」

 サーバー混雑していて、更新が遅れました。

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