―太陽と―
『ガアアアアアアアアーッ!!』
フラウヒルデの連続奥義を受け、さすがのラドンも絶叫を上げる。
その大気をも振るわす激しい叫びを受けて、フラウヒルデの持つ二刀の刀身は粉々に砕けた。
やはり人間が鍛えし武器では、竜の皮膚を斬り裂くことには無理があったようだ。
「済まん、よくぞ今までもってくれた。
その犠牲は無駄にはせぬ!」
フラウヒルデはラドンの傷口に拳を突き入れる。
その拳を引き抜いた時には、とある物体がそこに残っていた。
それを確認した彼女は、すぐにそこから飛び退く。
「ありったけの火薬だ。
内部から弾けろ!」
直後、破裂音と共にラドンの頭部は爆炎に包まれ、そしてその巨体は床に昏倒する。
だが、頭部が内部から爆発したにも関わらず、それは未だ原形を留め、生命活動の停止にまでは至っていない。
しかしその動きを、極端に鈍らせたことだけは確かだ。
「ルーフ殿っ、今だっ!」
「準備オッケーです。
できるだけ、離れてっ!」
フラウヒルデの退避を確認したルーフは、今や直径1m以上に膨れあがった光球をラドンへと向け、そして叫ぶ。
「極熱破砲ーっ!!」
ゴォッ!!
光球は白色の光線と化して、一直線に奔った。
光線は苦もなくラドンの身体を貫き、そこを中心とした広範囲が瞬時に蒸発した。
おそらくその瞬間的な最大温度は、数万度に達しているだろう。
結果、ラドンの肉体は殆ど焼け残らなかった。
「………………ちょっと……待て」
フラウヒルデは、茫然とラドンがいた辺りを眺めていた。
その周囲の床はあまりの熱量に、溶岩と化している。
(竜を一撃で消滅させるとは……なんという破壊力だ。
まるで、母上のような強さだぞ……?)
今回の戦いに参加した者の中で、自身の能力が一番劣っているのではないか――そんな気がしてフラウヒルデはちょっと落ち込んだ。
少なくとも、「攻撃力」という面において、最下位なのは間違いあるまい。
(くっ……年下のルーフ殿にまで後れを取るとは……。
まだまだ修行が必要だな……)
軽く唇を噛みしめながら、フラウヒルデはルーフの方に向き直った。
するとそこには、床にへたり込むルーフの姿がある。
その身体は小刻みに震えており、それを見た彼女は慌てて彼に駆け寄った。
「大丈夫か、ルーフ殿!?
まさか、母上のように魔力を使い過ぎたのか!?」
「いえ……まあ、それもあるんですけど……」
ルーフは真っ青な顔をわずかに上げる。
その瞳は涙で濡れていた。
「こ……怖かった……」
「はあ?」
フラウヒルデはルーフの思わぬ言葉に意表を突かれ、呆けた表情となる。
「だって……僕、実戦なんてまだ殆どしたこと無いですしぃ……。
し、死ぬかと思った……」
と、彼は再び顔を伏せて震える。
ラドンとの戦いの最中、ルーフは常に冷静さを失わず、勝負を最後まで諦めない立派な態度であると、フラウヒルデには見えていた。
しかしそれは、そうしなければまともに戦うことができず、結果として生き残れる可能性も低くなるという判断から、そうせざるを得なかったのだろう。
どうやら彼も、相当無理をしていたようだ。
それでも戦いに臨むルーフのその姿勢は、やはり立派であり、称賛にも値する──が、今の彼の姿を見るとやはり情けないと言うしかない。
だからフラウヒルデは、込み上げてくる笑いを抑えることができなかった。
「あははは……ルーフ殿は凄いのだか、凄くないのだか、よく分かりませんなぁ。
……お互い、まだまだ修行が足りぬという訳ですか」
そう、2人は互いにまだまだ未熟であった。
今はまだどちらの能力が上なのか、そんなことは一概には決められないのだ。
ならば――と、フラウヒルデは高らかに宣言する。
「負けませんぞ、ルーフ殿!」
「は?」
元よりフラウヒルデと勝負しようなどとは思っていないルーフは、キョトンとした。
「負けませんぞ!」
しかしフラウヒルデは、更に念を押すように言う。
「は……はい」
訳が分からなかったが、フラウヒルデの有無を言わせぬ勢いに気圧されて、ルーフは思わず頷いていた。
「うむ!」
そしてフラウヒルデもまた、満足そうに頷くのだった。
彼女はルーフを自らのライバルとして相応しい者であると、認めたのである。
パチパチパチ……と、物陰で拍手の音が上がる。
もっとも、その拍手の音はあまりにも小さくて、ルーフ達に聞こえはしなかったが。
「……どうやら、手助けは必要なかったみたいですね」
クロは安堵したように微笑んだ。




