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―呪 い―

 ここから更にキツイ鬱展開が暫く続きます。

『アア……ア……アアアア……』

 

 周囲に響くそのかすれ声には、苦痛と共に怒りの感情が入り混じっていた。

 その声にはかつての力強さは無く、それが断末魔となるのも時間の問題だろう。

 その証拠に、大地に横たわったその者の身体は激しく損傷し、完全に欠損している部位すらあった。

 今現在生きているのが、奇跡的とも言える状態だ。

 

 それはかつて、この世界に王の如き存在として君臨してきた者の、成れの果てであった。

 

『私が……この邪竜王たる私が敗れようとは……。

 おのれ……おのれ……おのれえぇっ!!』

 

 邪竜王は瀕死の状態でありながらも、怒りによって巨体を大きく震わせた。

 その拍子に傷口から大量の血液が――生命(いのち)が溢れ出す。

 

 彼女(・・)は、この世に比類無き力を誇る自身が敗れることがあろうとは、夢にも思っていなかった。

 事実、彼女は数多(あまた)の竜族と斬竜剣士による猛攻を耐え抜いたばかりか、逆に彼らの大半を物言わぬ肉塊へと変えるほどの凄まじい戦闘能力を見せつけていた。

 

 だが、それでさえも彼女はまだ完全に本気を出してはおらず、この激戦の最中(さなか)にありながらも、半ば戯れていた。

 彼女の強さの次元は、あまりにも他者とは違い過ぎていたのだ。

 

 そう、この世に並ぶ者が無いほどに。

 少なくとも彼女自身にはその自負があったし、そのことに異を唱える者は邪竜はもとより、敵対する竜族の中にすらいなかった。

 しかし――、

 

 このままでは竜族の陣営が壊滅する──そう判断したのだろう。

 斬竜剣士の長である男が他の者達を下がらせ、信じられぬことに単身で邪竜王へと立ち向かった。

 これには邪竜達は勿論のこと、竜族や斬竜剣士の一族でさえもが、自殺行為に等しい愚行だと感じただろう。

 

 確かに一族の長は、他の剣士達よりも飛びぬけて高い能力を誇ってはいたが、それでもおそらくは全盛期の竜王をも上回るかもしれないほど巨大な力を持った邪竜王には、決して及ぶはずが無い――誰しもがそう考えていた。

 しかし、その男は嬉しそうにこう言ってのけたのである。

 

「ようやく本気(・・)を出して戦うに、相応しい敵と出会った……!」

 

 と――。

 

 そしてその場にいた者は、闘神の姿を目撃することとなる。

 竜王によって最初に生みだされた一族の長、「斬竜王」の真の力は、何者も想像できぬほど常軌を逸したものだった。


 彼が振るう紅く輝く巨大な剣の一撃は山をも断ち割り、そして疾風(かぜ)よりも速い。

 それが邪竜王に対して、間断なく幾度も、幾度も叩きつけられた。

 

 さすがの邪竜王も、この斬竜王の攻撃には徐々(・・)に命を削られていく。

 そう、徐々にだ。

 斬竜王の超絶的な力をもってしても、やはり邪竜王は一筋縄ではいかない相手であった。


 それでも斬竜王の優勢は誰の目から見ても明らかで、やがて彼が勝利することは疑いようもなかった。

 無論、邪竜王も必死の抵抗を試みたものの、結果は自らの敗北と引き換えにして、斬竜王の左腕を食い千切るのがようやくであったのだ。

 

『おのれぇぇ……このままでは終わらぬ。

 このままではっ!!』

 

 息も絶え絶えになりながらも、邪竜王は最後の力を振り絞った。

 

(まだ私は完全に敗北してはおらぬ。

 奴等を道連れにする手段はまだある……!!)

 

 彼女は自らの牙にひっかかる物体に、意識を集中させた。

 それは今しがた、斬竜王より食い千切ったばかりの左腕だ。

 彼女はこの腕に流れる血と同種の血に反応するように、呪いをかけようとしていた。

 その生命力と、憎悪の全てを呪力に変えて――。

 

『おお……魔界に君臨せし四魔王が一人、呪いを司りし王ラムダーよ。

 捧げし我が命を糧として、この呪いを成就させよ!』

 

「!?」

 

 竜族と斬竜剣士達も、すぐに邪竜王の異変に気がつきはしたが、時はすでに遅かった。

 

『受けよ我が呪い――呪海(ヴォルゾール)!!』

 

 邪竜王が自らの生命と斬竜王の腕を触媒にして完成させた術は、一見何の効果も現さなかった。

 通常の攻撃魔法のように、周囲に破壊をもたらす現象は何も発生していない。

 しかしそれは、一拍遅れて恐るべき効果を発揮する。


 異変は斬竜剣士達の体内で生じた。

 彼らの内に流れる血液が逆流し、爆発的に暴れだした。

 いや、文字通り爆発したのだ。


 斬竜剣士達は、己の内側から破裂音を伴って噴き出す血液の奔流に、なす術もなく肉体を四散させる。

 その血と肉体の破片は大地に降りそそぎ、瞬く間に周囲を紅く染めあげていった。

 それを見届けた邪竜王は満足げに、

 

『あははははははははははっ! 

 滅びよ、滅びてしまうがいい。

 竜王よ、まだ終わらぬぞ。次はお前達竜族を滅ぼしてくれる。

 またいつか、相まみえようぞ! 

 あはははははは──っ!!』

 

 狂気じみた、それでいて絶叫に近い哄笑をあげながら事切れた。

 いや、既に生命活動が停止していた身体を、精神力だけで動かしていたのだろう。

 だからこそ、その妄執に満ちた末期の言葉は、()れ言と無視できぬ物があった。


 故に、戦いに勝利してなお、竜族に喜びは無い。

 そもそも、これだけ大きな犠牲を伴う結末を、果たして本当に勝利と呼べるのかどうか。

 だから、誰も言葉を発しない。


 最早その場には、先ほどまであれほど激しい激闘が繰り広げられていたとは思えないような、冷たい静寂だけが残されていた。

 四魔王は設定だけあるけれど、未だに名前以外はどの作品にも使えていない存在ですねぇ……。

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