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―新しき世代の戦い―

 フラウヒルデは剣と刀を巧みに操り、ラドンに斬撃を打ち込んだ。

 威力を重視した右手の長剣がラドンの左前足を斬り飛ばし、鋭さを重視した左手の刀がラドンの喉笛を斬り裂く。

 

 未熟な者であれば、実戦においての二刀流など自殺行為に近い。

 片腕で剣を振ること自体、それなりの技術と筋力が必要な上に、それを左右同時となると、その難度は桁違いに上がる。

 もしも複雑な手の動きを少しでも間違えれば、自身の腕を斬り落とすなどの致命的なミスに繋がりかねないのだから、その扱いには細心の注意が必要だと言えよう。

 

 勿論、一刀よりも二刀の方が攻撃の手数を増えるが故に、複数の敵に対処しやすくはなるのかもしれないが、手数が多い――つまり運動量が多いということは、体力の消耗が激しいということでもあり、状況によっては必ずしも利点とは言えない。

 また、左右の腕を別々に動かせば、身体の重心はどうしても崩れやすくなり、片腕で振った剣に力を乗せきることは難しい。

 結果、敵に致命的なダメージを与えることが困難となるばかりか、自らに大きな隙を生じさせかねなかった。

 

 しかしフラウヒルデは、危なげなく戦っている。

 既に彼女は肉体的にも、技術的にも、二刀流を扱うことには何ら問題が無いように見えた。

 その証拠に鋼鉄に近い強度を誇る竜の肉体を、易々と斬り裂いている。

 

(いけるっ! 

 あのベルヒルデ様でさえ、竜の皮膚を斬り裂くことには苦労したと聞くが、なんら問題ない)

 

 と、フラウヒルデは会心の笑みをうかべた。

 まあ、彼女と彼女が敬愛する伯母のベルヒルデとでは、厳密にはその身体に流れる血の質が違うので、根本的な身体的能力の差がかなりある。

 おそらくは仔猫と虎ほどにも――。

 

 それが故に、剣士としての技量の優劣を付けることは難しいが、それでもフラウヒルデの戦闘能力が、既に超人の領域に達していることだけは間違いない。

 しかしラドンはフラウヒルデの攻撃に怯んだ様子も無く、更なる勢いで彼女に襲いかかる。

 そのスピードは、フラウヒルデの目から見てもかなり速い。

 

「チッ! 殆どダメージは無いということか。

 ならば、これならばどうだっ!」

 

 フラウヒルデはラドンの攻撃を危なげなく(かわ)し、そして二刀による無数の斬撃でラドンを斬り裂く。

 

 千火乱刃(せんからんじん)」――フラウヒルデが放ったその技は、瞬時にラドンの巨体にいくつもの裂傷を作り、大量の血飛沫が舞い上がらせた。

 しかし彼女はその攻撃の手を緩めること無く、更にラドンへと斬撃を加え続ける。

 だが――、

 

「駄目だっ、効いてないっ!!」

 

 ルーフの悲鳴が上がった。

 

「何っ!?」

 

 フラウヒルデに身体を斬り刻まれながらもなお、ラドンはその攻撃の手を緩めてはいなかった。

 その頭上には1m弱の火球が形作られ、それは高速で回転し始める。

 

 次の瞬間、火球は高速回転しつつ無数の分身を吐き出した。

 その分身のサイズは精々小石程度の物であったが、その数はおおよそでも見当がつけられぬほど膨大であり、しかもあらゆる方向へ強弓の矢をも上回る勢いで撃ち出される。

 

 それによって広間の壁、天井、床には無数の穴が穿たれ、無惨に崩れ落ちた。

 それはフラウヒルデとルーフもまた例外ではなく、無傷では済まない。

 ルーフは辛うじて結界を形成したが、火球の群の炸裂による衝撃で結界ごと広間の壁際まで吹き飛ばされ、その時に少々の打撲を負ったようだ。

 

 また、フラウヒルデはルーフの結界による防御が間に合わなかったらしく、火球の直撃をいくつか食らったようだ。

 身体の所々には火球の炸裂によって皮膚を焼かれ、酷い部分では肉が弾け飛んでさえいる。

 普通の人間ならばまず戦闘不能だろう。

 しかし、彼女はまだ膝を地に落としてすらいない。

 

「肉を斬らせて骨を断つか……。

 敵ながら見上げた奴だ……くっ!」

 

 そう感嘆の言葉を漏らし、ようやく片膝を地に下ろす。

 

「フラウヒルデさんっ! 

 大丈夫ですかっ!?」

 

 ルーフは慌ててフラウヒルデに駆け寄り、治癒魔法を施す。

 その癒やしの力により、彼女の負った傷は見る見る間に癒やされていった。

 

「かたじけない……。

 だが、これでまだまだ戦える。

 敵も相当の手傷を負ったはず……。

 あと一歩ですぞ、ルーフ殿」

 

「え、ええ」

 

 だが、フラウヒルデがラドンへ視線を向けると、そこには――、

 

「なっ!?」

 

 ラドンの肉体もまた、クジュ……ビジュルル……と不快な粘着質の音を上げながら、その傷を急速に再生させていた。

 

「なんだ、あの再生スピードは? 

 まるで母上を見ているようだ……!」

 

 フラウヒルデは、額に冷や汗の粒を浮かべながら呻く。

 最早、ラドンが負った傷はほぼ完治しつつあった。

 いかに強力な再生能力を持つ竜とはいえ、斬り落とされた前足までもが既に生え替わっているとは、異常な再生スピードだと言えた。

 

「しかも……さっきより身体が大きくなっていませんか、あいつ?」

 

 ルーフの言葉の通り、ラドンの身体は先程よりも大きく膨らんでいる。

 それにその身体を覆う皮膚も、目に見えて硬質化しているようだ。

 

「我らが手強い相手と見て、意識的に肉体を強化したというのか……?」

 

 そんなフラウヒルデの推測が当たっていたとするのならば、彼女達がラドンを追いつめれば追いつめるほど、ラドンは更に肉体を強化させ、倒しがたい存在へと変じていくことになる。

 

 果たしてその肉体強化の上限が何処まであるのかは定かではないが、どちらにしろこれ以上敵の能力を強化させることが得策でないことだけは間違いなかった。

 お陰様で、入院中だった家族が昨日退院しました。今までは入院の対応で更新を休むことが多かったのですが、今後は家族の病状が悪化しない限りは、休むことは減ると思います。

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