―信 頼ー
そうこうしている内に、竜――ラドンはフラウヒルデに襲いかかる。
巨体に似合わない素早さだ。
「!!」
しかしラドンの動きは、何か見えない壁に阻まれた。
ルーフが防御結界を形成して、その動きを止めたのだ。
「僕もこの先にはついていけそうもないので、ここで頑張りますよ。
確かにザンさんから見れば、僕達は未熟かもしれませんけど、2人もいればなんとかなりますって」
「ルーフ殿……かたじけない!
そうです、我らへの心配は無用。
先に行ってください!」
そう叫ぶなり、フラウヒルデはラドンへ向けて斬りかかっていった。
「あ~あ……始めちゃったよ……。
分かった! ここは任せるから無事でいろよっ!」
と、ザンは身を翻し、舞踏会場の出口へと駆け込んだ。
「どうか御無事でっ!」
その後にメリジューヌも続く。
「しかし……本当にお2人を残して、良かったのでしょうか?」
ザンを追い掛けるメリジューヌは、その背に不安を投げかけた。
その気持ちはザンも同じはずだが――、
「実際、雑魚に構っていられる余裕が無いのも、確かなんだ。
気付いたか?
あの竜は私達が先に進むことを、少しも邪魔しようとはしなかったことに。
本来ならなんとしても、エキドナのところへ私達を辿り着かせないようにするのが、あいつの役目だろうに……」
「それは……この先に更に強力な伏兵が潜んでいる……。
だから我々があの場を突破しても、あの竜にとっては何も問題が無かったということなのでしょうか?」
「ん、たぶんね」
メリジューヌの答えに、ザンは「理解するのが早い」と感心する。
これからの戦いのことを考えると、ルーフとフラウヒルデに頼らなければならないほど状況が切迫しているのも事実なのである。
「だから私達は、自分の戦いに集中しなきゃならない。
今はルーフと、フラウヒルデの能力を信じよう。
それに危なくなったら、ファーブがフォローしてくるさ」
「いえ……ですが……」
「ん?」
ザンはメリジューヌの戸惑ったような視線が、自身の横側に注がれていることに気付いた。
その視線を辿ると、自らに併走するファーブの姿がある。
「なにやってるんだよ、お前はっ!?」
ザンはすっとんきょうな声で叫ぶ。
彼女はてっきりファーブが、ルーフ達の援護に回っているものだと、信じて疑わなかったのだ。
そうでなければあの2人を残していくことを、まだ躊躇していたかもしれない。
「仕方が無いだろ?
余裕が無いのはあいつらよりも、俺達の方なんだからさ。
それにルーフはかなり強力な回復魔法が使えるから、簡単には死ぬようなことにはならないはずだ。
そもそもエキドナが隕石召喚級の攻撃を万が一仕掛けてきたら、下手すればこの城ごと吹き飛ばされて俺達は全滅だ。
そうなる危険性を考えたら、俺がザンの側でエキドナの動きを監視していた方が、結果的にはみんなの生存率も上がるだろう?」
「そ……そうか」
ザンはファーブの言葉に納得したものの、その表情から不安の色はまだ消えなかった。
「なんだよ……お前さっき言っただろ、『あいつらの能力を信じよう』って」
「そ、そうだよな」
ファーブに指摘されて、ザンは小さく苦笑を浮かべた。
(そうだよな、信じなきゃな……。
あいつらの能力も……私の能力も……。
そうしなきゃ、まともに戦えやしないもんな)
自身にそう言い聞かせながら、ザンは表情を引き締めた。
(もう……負けるわけにはいかないんだ!)
ザンはもう、誰かを死なせたり、悲しませたりするようなことは、起こってほしくなかった。
明日は用事があるので、更新はお休みする予定です。




