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―魔城に潜むモノ―

 昨日は急な用事で更新出来なくてスミマセン……。

 ザン達が踏み込んだタイタロスの城は、静寂に包まれていた。

 最早城内を埋め尽くしていたあの触手も、あれほど横たわっていた人間の遺体も忽然と掻き消えていた。

 エキドナのエネルギー摂取が、完了したということなのだろう。

 

「なんだか……静かすぎて不気味ですね」

 

「……本当は活気のある、賑やかな城でしたのに……」

 

 ルーフの言葉を、メリジューヌは沈鬱な表情で返した。

 

「……ごめんなさい」

 

 思わずルーフは、謝罪の言葉を口にする。

 別段彼に落ち度がある訳でもないが、なんとなくそうしなければならないような雰囲気だ。

 メリジューヌも彼を責めるつもりは無いが、沈む気分が為に沈黙で応える。


 結果、無言で責められているような気分となったルーフは、ちょっと落ち込んだ。

 そんな彼を励ましているつもりなのか、ザンはルーフの頭を「よしよし」と撫でる。

 それはそれで、男の子としては少々屈辱的な扱いだ……と、彼は更に気分を沈ませたが。

 

「従姉殿、広間に出ましたぞ」

 

 先頭を進む――かなり張り切っているらしい――フラウヒルデが後続に告げた。

 それを受けて一同は気を引き締める。

 

「舞踏会場ですね。

 邪悪な気配はこの上の方から……恐らく最上階の王の間でしょう。

 敵はそこに潜んでいます……」

 

「最上階か。

 それじゃあ、空から進入した方が早かったかな――いっ!?」

 

 メリジューヌの言葉を確認する為に上を見上げたザンは、度肝を抜かれた。

 それもそのはず、彼女達の頭上から何か巨大な物体が落下してきたのだから。 

 一行は慌てて思い思いの方向へと逃げ出した――が、ルーフだけは反応が遅れた。

 

「ルーフ殿っ!!」

 

 フラウヒルデはルーフの身体を抱きかかえ、ギリギリで落下物に押し潰されることを回避した。

 その直後に、激しい轟音と振動――。

 落下してきた物体の墜落地点を中心にして、大広間の床一面には蜘蛛の巣状の亀裂が入る。

 よく床が抜けなかったものだと、この城の堅牢さをその場にいた者達に思い知らせることとなった。

 

 落下してきたのは竜であった。

 その全長は20m余りで、「巨大」なと言うよりは「長大」な印象がある。

 細長い身体に前脚はあるが後ろ脚は無く、頭部は多くの竜に見られる爬虫類的特徴よりも何処か人間的な特徴があるようにも見えた。


 勿論、不自然なほどに巨大な一対の角と、無数の牙が無ければの話ではあるが。

 その顔面だけを取って見れば、「悪魔」と形容してもなんら違和感が無いだろう。

 

「……見たことの無いタイプの竜だな。

 だが、俺達に気付かれぬように気配を消していたところを見ると、上位竜のクラスの能力を持つことは確実か……」

 

 ファーブは目の前の竜を、そのように評した。

 その声にはやや緊張した響きがある。

 何故ならば、逃げ遅れたルーフとそれを庇ったフラウヒルデが、広間の入り口付近に取り残されていたからだ。

 間を(はば)むように竜がいる為、ザン達との合流は難しい。

 

「お前達は今来た通路を引き返せ! 

 こいつは少々厄介そうだ!」

 

 ザンの叫びに、フラウヒルデは首を左右に振り、

 

「ここは私が引き受けましょう。

 従姉殿達は先を急いで下さい!」

 

 と、フラウヒルデは、腰に下げた剣と刀のそれぞれを引き抜きながら構える。

 

「いや……、しかし……」

 

 その提案にザンは逡巡する。

 相手は本来ならば、人間には勝ち目が無い強大な竜だ。

 いかにフラウヒルデが人間の規格から大幅に外れるほどの実力者であるとは言え、果たして彼女の能力で(くだ)すことができる相手なのだろうか。

 

「従姉殿、私とて自分の実力は心得ているつもりですよ。

 この先に潜む敵は、メリジューヌ殿のお父上にも勝利した相手だ。

 従姉殿でさえも勝ち目が薄い相手かもしれない。

 そうでなくとも、先程戦ったばかりの従姉殿には、この竜の相手にしている余裕は無いはずです。


 それにこの先へ私が進んでも、足手纏いになるのも事実。

 だから私は自身の実力に見合った相手と戦い、従姉殿の後顧の憂いを断っておきます」

 

 フラウヒルデの言葉はもっともであった。

 確かに先程テュポーンとの戦闘もしているザンは、多少なりとも消耗している。

 ましてやこれから戦う敵は、テュポーンをも倒している。

 果たして彼女が万全な状態でも勝てるかどうか……。


 これ以上の消耗は避けた方が、懸命だろう。

 しかし――、

 

「だけど……正直言って、この竜はあんたを超えた能力を、持っていそうな感じだぞ?」

 

「望むところですよ。

 自身より弱き者と戦うことに、何の価値がありましょうや? 

 これは絶好の修行の機会なのです。

 邪魔しないでください!」

 

  フラウヒルデは笑いながら言った。

 何があろうとも既に覚悟はできている――そんな顔をしていた。

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