―魔城に響く哄笑―
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今回はちょっと短めです。
「来るか……斬竜剣士どもめ……!」
王座のエキドナは、城に侵入する何者かの気配を感じ取り、不機嫌そうに呻いた。
「少々テュポーン相手に、力を使い過ぎたからのぉ……。
今はあまり相手をしたくもないのじゃがな……」
そのように不満を口にするエキドナではあったが、その態度には今までの彼女らしからぬ超然としたものがあった。
その口調もこれまでとは全く別の、老獪さを感じさせるものへと変わっている。
あるいはこれこそが、数千、数万の時を経てきた彼女の、本性なのかもしれない。
巨大な能力を手に入れたが故に、最早強者に媚び、その力を利用する弱者を演じる必要は無くなったということなのだろうか。
それとも――。
「まあ、良い……。
どうやらテュポーンとの戦闘には生き延びることができたようじゃが……勝てるほどではなかったようじゃのぉ……。
おそらくリヴァイアサンを倒した者とは、別口じゃろう。
ならばさほど脅威とはなるまい……」
エキドナは余裕の笑みを浮かべる。
それと同時に彼女の腹部が縦に大きく裂け、そこから拳大のピンク色をした物体が飛び出した。
その物体は空中でクルクルと回転し、まるで雪原に転がした雪玉が更に雪を巻き込んでいくが如く、その質量を増大させていく。
「さあ……我が子ラドンよ。
そなたには我が血肉の一部を用いて生み出した、強靱な肉体を与える。
存分に暴れるが良い」
未だ空中で回転を繰り返しながら膨れ上がるそれは、一片の肉塊であった。
肉塊は凄まじい早さで細胞分裂を繰り返し、質量を増大させ、そしてあるべき姿へと変じていく。
巨大な竜の姿へと――。
「さて、ラドンだけでは少々心許ないのう……。
……いや、丁度良い。
敵が斬竜剣士ならば、アレを使うか……」
と、エキドナは腹部の口腔を、更に広げた。
そしてその奥からは、何者かの姿が現れ始める。
それは先程の肉塊とは違い、既にそれなりの質量を有している。
まず現れたのは、なにやら丸い物体であった。
それはまるで人間の頭部のような――いや、羊水に濡れた黒い髪が見える。
まさにそれは、人間の頭部そのものであった。
続いて、肩や、胸――やがて、全身が姿を現すだろう。
「あはぁ……」
エキドナは喘ぎ声のような、恍惚とした笑い声を上げる。
今の彼女はまさに、「産み」の苦痛と喜びを感じているのだろうか。
それとも今彼女が生み出した者と、斬竜剣士が演じるであろう茶番劇を想像してのことだろうか。
「あはは……」
彼女の笑い声は、徐々にけたたましいものとなっていく。
「あはははははははははははははははは……」
その笑い声だけは、以前の彼女の物と、なんら変わりはなかった。




