表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/430

―突 入―

(戦力的に少し不安は残るけど……仕方が無い)


 問題は色々とあるが、城に突入する面子(めんつ)は決まった。

 

「じゃあ、あのクロって奴を残していこうか。

 ……ファーブ、フォローを頼むな」

 

 少し困ったようなザンの表情から、彼女の心情を察したファーブは(こころよ)く引き受けた。

 

「ああ、お前は周りを気にせず、思いっきりやりな」

 

「よし、それじゃあクロって言ったっけ? 

 叔母様の看護をお願いね」

 

「ハイ! 元より我が(あるじ)、この命に代えても守り通す所存です!」

 

 クロは心得ました──と、勢いよく敬礼をした。

 

(……ノリが誰かに似ているな……)

 

 と、ザンはフラウヒルデに視線を送る。

 当のフラウヒルデは、なにやらウムウムと感心したように頷いていた。

 クロの態度を「見上げた心意気だ」とでも評価しているのかもしれない。

 

 ザンはは内心で、「本当に自分の選択で良かったのかなぁ~?」と不安を感じつつも、それを表情に出さず笑顔で叔母に告げる。

 

「それじゃあ叔母様、何かあっても暴れないで、大人しく待っていてくださいよ?」

 

「人が動けないのをいいことに、好き勝手言ってくれるわね……。

 余計な心配はしなくていいから、自分達のことだけ心配してなさい。

 いい? 必ず帰ってくるのよ」

 

 ザンは、いや彼女だけではなく、ルーフも、フラウヒルデも、そしてメリジューヌも深く頷いた。

 最早、言葉は無かった。

 これから出向く場所は死地となるかもしれないのだ。

 緊張するのも無理はない。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 ザンは緊張と不安を振り払うかのように明るく声を張り上げ、タイタロスの城に向かって駆けだした。

 他の者も彼女に続く。

 その背を見送りながらシグルーンは、

 

「……また私だけ取り残されるなんてことは、もう嫌よ……」

 

 と、寂しそうに呟く。

 

 古くは両親に始まり、姉と兄、夫や子供達……。

 他にもこの200年間で、多くの人々がシグルーンを残したまま、二度と戻らぬ旅路についた。

 その数は千人以上になるだろう。

 

 そして今度もシグルーンは、(ひと)りで取り残されることになるのかもしれない。

 今、彼女の心は、耐えがたいほどの不安を抱えていることだろう。

 それでも余程疲弊(ひへい)していたのか、シグルーンは遠のくザン達の背を見つめながら静かに目を閉じた。

 ほどなくして、小さな寝息が聞こえてくる。

 

「御館様……」

 

 クロはシグルーンを気遣う表情を浮かべ、

 

「やはり、アースガルへと強制送還しますね」

 

 と、転移魔法の準備を始めた。

 

 シグルーンは眠っているはずなのに、ムッとした表情となる。

 起きていれば、「勝手なことをするな!」と、怒鳴っていたことだろう。

 クロは慌てて眠っているシグルーンに弁明する。

 

「あ、いや、出過ぎた真似とは思いますが……。

 やはり俺も、あの城に潜入します。

 そして俺の命に代えても、お嬢様方を生かして帰しますよ」

 

 しかし、シグルーンの寝顔は、更に不機嫌そうなものへと変わる。

 

「あ、いや、え~と……俺もちゃんと生きて戻りますから」

 

 クロはシグルーンが何に対して気分を害したのかを察し、言葉を訂正する。

 するとシグルーンはニッコリと微笑んだ。

 

(本当に眠っているのか……?)

 

 思わずそう勘ぐってしまうクロであったが、シグルーンには覚醒しているような気配は無かった。

 だからと言って、完全に眠っているようにも見えないが……。

 

(全く……100年近い付き合いになるが、未だに驚かせられる)

 

 クロは思わず苦笑した。

 まあだからこそ、シグルーンの部下でいることには退屈せずに済むし、なによりも先程のように本気で彼に信頼を寄せ、そして身の安全を気遣ってくれる――しかも、かつては敵対し、その上邪悪な存在と忌み嫌われてきた闇竜の彼に対してである。

 それはとても心地良いものだった。

 

 だから、クロはシグルーンに忠誠を誓う。

 

(まあ……ともかく、御館様が悲しむような、最悪の結果だけは回避しないとな……)

 

 その為には、先程の言葉とは裏腹に、自身のいかなる犠牲を(いと)わぬ覚悟をクロは決めていた。

 シグルーンを(あるじ)と仰ぐことは、それだけの価値があると彼は思っているのだ。




 数瞬後、転移魔法による光がアースガルの方角へと飛び立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ