―閑話 さらば幼き日の思い出 シグルーン編―
何気に今回は描き下ろしです。まあ、昔漫画で描いた物の内容そのまんまですが。
とある山の中にある街道──。
シグルーンとクロの目の前には、ミノタウロスの姿があった。
ザン達の後を追ってきた彼女達の前に立ちはだかる牛頭の魔物は、片方の角が折れ、身体のあちこちに怪我をしていた。
その所為か、ミノタウロスは酷く興奮した様子で、今にもシグルーン達に襲いかからんとしている。
しかし、シグルーンに動じた様子は無い。
むしろ──、
「……可愛くないわねぇ」
この状況にそぐわない、呑気な感想を漏らしていた。
「そりゃあ……魔物ですし」
そんなクロの言葉に対してシグルーンは、何処か夢見るような表情となる。
「違うのよ。
私の中のミノタウロスは丸っこくて、モコモコで、斑模様の可愛い子なのよ!
こんな『モーミン』の出来損ないなんかじゃないわ!」
「モッ!?」
シグルーンの言葉に、ミノタウロスは気分を害した様子だった。
言葉は通じなくとも、自身の存在を酷く侮辱されたことは伝わったらしい。
「ヴモォォォ~っ!!」
激怒したミノタウロスは、シグルーンに遅いかかる。
しかし──、
「うるさいっ!!」
「ヴモッ!?」
シグルーンはミノタウロスを殴り飛ばす。
小さな少女の姿で、巨人の如き怪物を殴り飛ばす──。
なかなか常識外れかつ、理不尽な光景だった。
しかし更に理不尽は続く。
「もう、お前のような不細工は見たくないわ!
見よ、我が魔術の奥義たる、分子配列変換魔法!!
トランスフォーム!!」
「モオオオオォォォーっ!?」
シグルーンの掌から放たれた光線が、ミノタウロスを飲み込む。
そして光が収まった時、その場所にはシグルーンがイメージするモーミンそのものの姿がそこにあった。
「モッ!? モオォォォォォォ!?」
最早こうなってしまっては、以前のような戦闘力は期待できないだろう。
それどころか、既に魔物の範疇からも逸脱していそうである。
それを悟ったのか、ミノタウロスは悲しそうに泣き声を上げた。
「クロ、いつも通りそいつを城の地下迷宮に放り込んでおきなさい。
管理も任せるわ
私は先に行っているから」
と、シグルーンは、クロに全部丸投げして歩いていった。
彼女はペットをすぐ欲しがるが、飼育は人任せにするタイプであった。
(……俺も一歩間違えば、ああなっていたのかなぁ……)
そんな有り得たかもしれない可能性を想いつつ、クロはミノタウロス──もとい、最早モーミンとしか呼べない存在になってしまった者に、憐憫の視線を投げかけるのだった。
なお、今回のような出来事はシグルーンにとって珍しいことではなく、その結果、城の地下迷宮には、やたらとファンシーな魔物が無数に徘徊しているという……。
次回から8章です。




