―乱入者―
少し短めです。
地面では、ザンがひっくり返って気絶している。
その脇には1人の人物――。
その者が天に向けて掲げた右手は、焦げていた。
顔には脂汗なのか冷や汗なのかは定かではないが、ベッタリと汗で濡れている。
どうやら、かなり怖い想いをしたらしい。
「あ、あれは母上と思しき少女と、一緒にいた男!?」
フラウヒルデの言葉通り、ザンの危機を救ってくれたのは、シグルーンらしき少女に付き従っていた男――クロであった。
「……我が雷を防ぐとは何者だ?」
テュポーンは視線を鋭くした。
あの激しい雷撃魔法を無効化するなど、上位の竜族ですら難しい。
それをやってのけるとは、かなりの実力を持つ者であることの証明だった。
「何者か──、なんてどうでもいい。
ともかく君命により、この御方をこれ以上傷付けることは許さん!!」
「君命はともかく、同感だな……」
テュポーンが突然の乱入者に気を取られている隙に、結界から脱出したファーブがクロに並ぶ。
更にファーブに結界を解除しもらったのか、ルーフとフラウヒルデもその後ろで戦闘態勢を整えていた。
「……関係の無い者の命を奪うつもりは無いが……。
邪魔だてをするのならば、容赦はしないぞ……」
テュポーンは抑揚なく宣言した。
そんな彼に対して、ルーフは怒りの表情をあらわにして言葉を返す。
「関係無くなんてありませんっ!!
僕の大切な……えと……仲間です!」
「うむ、血の繋がった従姉殿だ!」
「君命の為ならば、この命惜しまず!!(っていうか、無事任務を遂行しなければ、御館様に殺される……)」
一同の決死の覚悟を秘めた表情に、ファーブは頼もしげに頷く。
「そういう訳だ。
ここにいる全員、ザンを守る為に命を懸ける。
言っておくが、テュポーン。
俺も昔のままではないからな。
覚悟しておけ」
ファーブのそんな警告にも、テュポーンは動じない。
「………………だが、勝てぬ訳ではない」
彼とて娘の命が懸かっているのだ、もう後へ引く訳けにはいかない。
それでもファーブ達の心情に共感できるところがあるのか、テュポーンの表情は重い。
「もう、やむを得まい……。
我が力、完全に開放せねばならぬか」
「――っ!?」
唐突に巨大な力の波動が、一同へと叩き付けられた。
しかもその力の波動は更に巨大なものとなって、テュポーンから絶えず放出されている。
「ひ……ひっ!!」
そのあまりに巨大な力の奔流に、ルーフは身体が押し流されそうになる錯覚を感じた。
いや、事実、彼の軽い体は少しずつ後方に流されつつある。
「な、なんて闘気だ……。
これじゃあ、リヴァイアサンと大差ないじゃないかっ!」
思わずファーブは、悲鳴に近い声で叫ぶ。
これは彼が知るかつてのテュポーンとはまるで違う。
あるいは単純な力だけでも、リヴァイアサンを上回るのではないか。
これでは犠牲無しに勝ちを得ることは難しい。
ここはどうにかして逃げることを考えた方が、得策なのかもしれない──と、ファーブは思い始めていた。
「今こそ見せよう……。
我が真なる力を……」
(……もう二度とこの姿に戻ることは無いと思っていたが……。
済まぬ、エトナ……メリジューヌ……)
テュポーンから放出される力の波動は、更に大きく膨れ上がった。




