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―避けられぬ戦い―

(何でこんなところで焚き火……?)

 

 と、唖然とするザン達に鋭い視線を送りながら、テュポーンは立ち上がる。

 

「待っていたぞ。

 ここを通るのは分かっていたが、予想よりも少々遅かったな」

 

「待っていた? 

 私達をか? 

 一体何の為に?」

 

 テュポーンの言葉にザンは(いぶか)しげに問う。

 この道はメリジューヌから、「軍隊が移動する表街道を通るのは危険だから」と、教えてもらったもので、現在はあまり使用されていない裏街道である。

 彼女達がここを通ることを知っているということは、メリジューヌの関係者なのだろうが、何の目的でここにいるのか、ザンには全く見当がつかなかった。

 

「ってゆーか、お前、テュポーンじゃないか」

 

「ええっ!?」

 

 ファーブが唐突に発した言葉に、一同は思わず数歩後退(あとずさ)る。

 邪竜四天王の1人が目の前に出現したとなれば、当然の反応だろう。

 

「……そういう貴様はファーブニルか。

 200年ほど前に行方知れずになったとは聞いていたが、生きていたのだな」

 

「ハッハッハ……まあなんとかな。

 いや、それにしても懐かしいなぁ」

 

「……(なご)んでいる場合なんですか?」

 

 旧友との再会を懐かしんでいるかのような(ぬる)い空気を(かも)し出しているファーブへと、ルーフは突っ込みを入れた。

 ちなみに、テュポーンはファーブとの再会にはさほど感慨は無いらしく、表情はいつものように憮然としている。

 

「そうだ……。

 皇王様がこんな場所で、一体何の用なんだ? 

 まさか私達の出迎えという訳でも、ないんだろ……?」

 

 と、ザンは警戒感を強める。

 そんな彼女の問いに対して、テュポーンは抑揚なく答えた。

 

「メリジューヌがな……何者かに襲われて帰らぬ」

 

「!?」


 一同の間に動揺が走った。

 

「い、一体誰が!?」

 

 思わずテュポーンに詰め寄りかけたザンは、テュポーンに指を差されて歩みを止める。

 

「報告では貴様だと聞いている」

 

「なっ!? 私じゃないよ! 

 メリジューヌとは友達になったんだ、なんで私が襲わなくちゃいけないんだよっ!」

 

 ザンは心外とばかりに怒声を上げる。

 

「友達……か。

 やはり貴様達とは戦いたくはないな。

 今度はさすがに、メリジューヌからも恨まれそうだ…………」

 

 テュポーンは厳しい表情をわずかに緩めた。

 しかしそれも一瞬のことだ。

 

「だがな……どうやらエキドナは、私と貴様をどうしても敵対させたいようだ。

 メリジューヌが戻らぬ以上、私には奴の策に乗る以外の道は無い……!」

 

 その言葉を終えると同時に、テュポーンは手にしていた大剣を鞘から引き抜く。

 その全身からは、凄まじい殺気が(ほとばし)っている。

 

「な……どうしても戦わないと駄目なのか……? 

 私だって、できればメリジューヌの親とは戦いたくないんだ」

 

 ザンは小さく呻いた。

 しかし、ファーブは、

 

「詳しい事情は分からんが、どうやらテュポーンは娘をエキドナに人質に取られているようだな……。

 俺達はともかく、あいつには充分すぎるほど戦う理由がある。

 この戦いは避けられないだろう……」

 

 と、諦めたような口調で、この戦いが不可避であることを告げる。

 

「じゃあ、メリジューヌを助け出せば……」

 

「それができるのなら、とっくにテュポーンがやっているさ」

 

「くっ…… 剣よ()でよ」

 

 ザンは苦渋に満ちた表情で、斬竜剣を呼び出した。

 それを確認したテュポーンは小さく頷く。

 

「では、始めようか。

 いや、先に断っておくが、私の標的は斬竜剣士の女……ザンと言ったか? 

 貴様だけだ。

 他の者には一切手を出すつもりは無いが……戦いの邪魔に入ると言うのなら容赦はしないぞ?」

 

「心配するな。

 俺が他の奴には手出しをさせないさ。

 こいつらにお前の相手をさせたら、命がいくつあっても足りないからな。

 もっともザンが危なくなったら、俺自身を抑えられるかどうかは分からないぜ?」

 

 そんなファーブの言葉を受け、テュポーンは忠告を返す。

 

「……今の私は、竜の能力の大半を封印している……。

 だがファーブニル、貴様までもが戦闘に加わるようなら、さすがに全能力を開放せざるを得ない……。

 状況が更に悪化するということだけは覚悟しておけ」

 

「………………」

 

 その言葉に納得したのかどうか、ファーブは押し黙った。

 

「ちょっと待て。

 竜の能力を殆ど封印しているだって?」

 

 テュポーンの言葉に、ザンは目を白黒とさせた。

 

「……人ならざる者は、人の王にはなれんよ。

 それに私は、人の子の親でもある」

 

「…………それで私に勝つつもりなのか……?」

 

「むしろこれぐらいでなければ、対等の勝負にはならぬであろうよ。

 私は全能力を開放すれば、リヴァイアサンにすら勝てる自信がある。

 ……そういえば、リヴァイアサンを倒したのも貴様か? 

 ならば手加減もいらぬか?」

 

「………………私はあいつに負けた……」

 

「ほう……? 

 では誰が奴を……というところに多少興味を引かれるが、今の私には関係の無いことだ。

 ともかく全力を出すまでも無いということか。

 いや、リヴァイアサンと戦って、今生きているだけでも警戒するに値はするがな……」

 

 ザンはギリリと奥歯を噛み締める。

 テュポーンの挑発的な言葉は、彼女の怒りの炎に油を注いだ。

 しかしそれと同時に、彼女の闘志を萎えさせかけもした。

 

 彼の言葉が全て真実ならば、ザンが完敗したリヴァイアサンよりもテュポーンは更に強く、既に勝ち目は無いも同然の窮地に彼女は立たされていることになる。

 

(でも、あいつはまだ全力を出すつもりは無いようだ……。

 ならば、そこに付け込めばなんとかなる!)

 

 ザンはなんとか冷静さを取り戻し、剣を構えつつ深呼吸をする。

 

「よし、どうせなるようにしかならん。

 気楽にいこう! 

 とりあえず、新しく覚えた技とか、色々試させてもらおうかな」

 

 と、ザンは口元に笑みを浮かべた。

 それに合わせるかのように、テュポーンもわずかに微笑む。

 

「……いかんな、貴様のような奴を見ていると、戦士としての血が騒いでしまう」

 

「そうだな、あんたって昔からそういう奴だったよ」

 

 ファーブも小さく頷いた。

 テュポーンはギリシア神話に登場する怪物です。「台風」の語源でもあります。

 神話上では妻がエキドナで、彼女との間に無数の魔物を生み出しています。そして一度は神々にも勝利したラスボス的な存在ですね。

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