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―遭 遇― 

 昨日はお休みしてスミマセン。

 そして今回は少し短めです。

(結局……私自身の手で、全てを振り出しに戻してしまったな……)

 

 焚き火の灯りを見つめながら、テュポーンは過去に想いを馳せていた。

 灯りに照らされた彼の顔には、苦渋の色が浮かぶ。

 

 正気に返ったテュポーンの眼前に拡がっていたのは、再び荒廃したタイタロスの姿だった。

 全ては竜の力を解放して暴走した、彼自身による所業の結果であった。

 その現実を突きつけられ、意識が魂の底に沈むかのようにすら思われたあの深い絶望感は、今でも忘れられない。


 しかしだからこそ、彼はその罪を(あがな)わなければならなかった。

 

(あれから……もう理不尽な争いによって、誰の命を奪われずに済む世界を造る為に、私は必死だった……)

 

 だがテュポーンが選択した手段は、力によっての世界の統一だった。

 争いを無くす為に争いを繰り返す――矛盾に満ちていたが、それ以外の方法を彼は知らなかった。

 いや、あるいは大切な者を失った彼の心に住み着いてしまった憎悪が、そうさせていたのか──。

 

(理想の世界を築き上げ、恒久的な平和を得られるのならば、避けられぬ犠牲だ――と、多少は仕方無きことだと思っていた。

 だが、あとどれだけ(しかばね)を積み上げれば、辿り着けるのだろうな……?)

 

 テュポーンは自嘲気味に笑みを浮かべる。

 確かにタイタロス皇国という巨大な国家によって、この広いユーフラティス大陸は統一されつつあり、彼の理想は形を成し始めていた。


 その結果として、争いに怯えることもなく、生活の質も向上した民の数は、数え切れない。

 テュポーンの手によって、救われた人間の数は、決して少なくはないのだ。

 

 しかし、それまでに流された血は、テュポーンの予想をはるかに超えるほど多い。

 その血にどのようにして報いていけばいいのか、正直言って彼には見当も付かなかった。

 結局、仮に平和な世界が成立したとしても、犠牲になってしまった者達がその恩恵を享受することはできないのだから……。

 

(挙げ句に、たった1人の我が娘さえも、満足に守れぬ有様か……。

 私は今まで何をしてきたのだ……)

 

 深く苦悩し続けるテュポーン。

 しかし、彼の目はわずかに細まった。

 何者かが近付いてきているのを、察知したからだ。


 暗い道の先からは、複数の人間による会話が聞こえてくる。

 

「全く……フラウヒルデの所為で、宿にも泊まれないじゃないか。

 今夜は野宿だからね。

 これで嫌だとか文句を言ったら、さすがに殴るよ?」

 

「面目ありません……。

 こうなれば、腹を斬ってお詫びをば……。

 ルーフ殿、死にそうになったら治してください」

 

「……い、いや、そこまでしなくてもいいから……。

 でも、ちょっと殴らせてね?」

 

「……それって、『死ね』って言っているように聞こえるんだが」

 

「なんで!?」

 

「いや……ザンさんに殴られたら、普通に死にますよ、たぶん……」

 

「馬鹿言うなよ、ちゃんと手加減するって」

 

「そうかなぁ……? 

 この前僕が殴られた時、頭蓋骨にヒビが入りましたよ……?」

 

「だって、すぐ治るじゃん、お前……」

 

「だからって……!」

 

「あっ、従姉殿、ルーフ殿もケンカをしている場合じゃないですよ。

 向こうに何かの灯りが見えます。

 家があるのでしょうか?」

 

「えっ、ホント? 

 タダで泊めてもらえないかな?」

 

「何かお仕事を手伝わなきゃ、駄目でしょ?」

 

 と、その声は徐々にテュポーンに近付いてきて――、

 

「あ、あれっ?」

 

 そして、その声の主達は、道の真ん中で焚き火をしているテュポーンを()の当たりにし、何事かなのか──と、唖然とした。

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