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―戦 禍―

 雑然とした町の(にぎ)わい──。

 さすがに大戦から30年近い年月が過ぎると、町の復興も目覚ましい。

 

 もっともまだまだ国の体裁は整っておらず、数々の市町村が寄り添って国とも呼べぬような自治体を形成しているに過ぎない。

 が、いずれはその自治体の数々が更に寄り添い、国を形作っていくのだろう。

 

 しかし現状では多くの野心を持つ自治体の指導者達が、自身の勢力を拡大させようと、周囲の市町村や自治体と小競り合いを繰り返しているだけに過ぎず、タイタロスが1つにまとまる兆しは未だに見えなかった。

 

 だがこのタイタロスがより安定する為にも、国家の樹立を望む者は多く、強力な指導者さえ現れれば、新しい国が誕生するのもそう遠い未来のことではないだろう。

 ただ、(くら)い影がまだまだこの地に大きく根ざしていることも、厳然たる事実ではある。

 

「なんでも最近、トーネ地方の5つ自治体が1つにまとまって、大きな勢力になったって話だ。

 で、今度は更に勢力を拡大しようと、あちこちに攻め込んで占領しているらしいよ。

 そろそろ、この町も危ないんじゃないかな。

 ほら、ここはあの大国アースガルとも近くて、交易もしてるいるから豊かだしさ。

 狙っている連中は多いって言うぜ」

 

「やだ……戦争になるのかしら」

 

 町の住民達の噂話を偶然耳にしたエトナは、不安げに表情を曇らせる。

 そんな彼女の顔を、幼い少女が不思議そうに見上げた。

 

「ね、ね、お母様。

 センソウって何ですか? 

 美味しいものですか?」

 

「違う違う。

 戦争は美味しくないのよ。

 怖いものなの」

 

 娘のメリジューヌに問われて、エトナは笑いを堪えながら答えた。

 よりにもよって戦争が美味しいものとは、「無知は恐ろしい」とはよく言うが、これはそれを通り越して逆に微笑ましくさえある。

 

「怖いものなのですか?」

 

 メリジューヌは、可愛らしい大きな目をパチクリと(またた)かせた。

 

「そうよ。

 だからできれば一生出会いたくないわね」

 

「ふ~ん」

 

 メリジューヌは納得したのか、あるいはしていないのか、小首を傾げ、何かを考え込んでいるかのような仕種を見せた。

 そんな彼女の姿はどこから見てもまだ幼い子供だるが、その顔を良く見てみると、なかなか奇麗な顔立ちをしている。

 特に大きな瞳が、まるで宝石のように青く美しい色合いを見せていた。


 まあ、少々おでこが広めだが、それもご愛敬。

 なかなか将来が楽しみな、エトナ自慢の娘である。

 

「でも、戦争がいくら怖くたって、お父様がいれば大丈夫じゃないかなぁ。

 お父様は世界一強いんだから」

 

「世界一ですかぁ?」

 

 メリジューヌは小さく驚きの声を上げる。

 

「そう、少なくとも私が知る限りでは、ね」

 

 そんな母の言葉に、メリジューヌは「すごい、すごい」とはしゃぐ。

 

「ともかく、戦争なんて不吉な話題は忘れて、早く買い出しを済ませましょ。

 家でお父様が待っているよ」

 

「うん、お母様のお手伝いしたら、お父様が沢山遊んでくれるって約束なのです」

 

「そうなの。

 じゃあ頑張ろうね」

 

「はい」

 

 その時、エトナとメリジューヌは、「ヒュルルルル~」という不可解な音を聞いた。

 

「え?」

 

 そして、次の瞬間――、

 

 ドオォンと、彼女達のはるか後方で、大きな爆発。

 更に次々と爆発が続く。

 町を囲む石造りの(へい)が、次々と破壊されている。

 

「今のは……攻撃魔法? 

 嘘、本当に戦争が始まったの!?」

 

 オロオロと狼狽するエトナ。

 そんな彼女のスカートの裾に、メリジューヌはすがりつき、

 

「お、お母様、セ、センソウですか? 

 で、でも大丈夫ですよ。お父様は世界一強いんですから。

 きっと大丈夫です!」

 

 脅えて今にも泣きそうになりながらも、母を庇おうとしている。

 そんな娘の姿に、エトナは冷静さを取り戻した。

 

「うん……そうね。大丈夫よ。

 何があっても大丈夫」

 

 だが今は、テュポーンが側にいない。

 だから――、

 

「……あなたは(・・・・)、何があっても大丈夫よ」

 

 エトナは命を懸けて、娘を守る覚悟を決めた。

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