―予 兆―
今回はかなり短めです。
それから銀髪の少女とその従者は、ザン達の後を離れることなく、しかし直接の接触を持つこともなく、ある程度の距離をおいてピッタリとついてきた。
ところがタイタロスとの国境を越えた辺りで、その姿はザン達の視界から完全に消える。
戦時中の国境を簡単に通れるはずもないので、ザン達はファーブに転移させてもらったのだが、その後からあの少女達が追ってくる気配が無いのだ。
よもやあのシグルーンにして、国境を越えることができなかったとは思わないが、さすがに一国の王にも等しい身分の者が、交戦中の国に侵入することは不味い──と、これ以上の追跡を自重したのかもしれない。
ようやく帰ってくれたのか……と、一同はホッと胸を撫で下ろす。
無論、相手が相手なだけに、「また唐突に姿を現すのではないか」と、暫くの間はビクビクと警戒せずにはいられなかったが……。
そんな一行の、数kmほど後方――。
「どうしたのですか、御館様?
こんなところで道草を食っていたら、お嬢様達を見失ってしまいますよ?」
そんな従者の男──クロの呼びかけにも応えずに、少女は厳しい視線で曇り空を睨んでいた。
「御館様……?」
何故かピリピリと緊張している主人の様子を受けて、クロは怪訝そうに首を傾げる。
「血の臭いがする……!」
「え? 俺は何も感じませんけど……」
「……どうもハッキリしないのよねぇ。
本当に血の臭いなのか、それともこれから流される血の予兆を、感じ取っているだけなのか……。
どちらにしても、何だか嫌な予感がするわ……」
少女は腕組みし、眉間に大きく皺を寄せた。
そんな仕種は幼い外見にはそぐわない、年輪を感じさせる。
そして何かを決意した彼女は、大きく声を張り上げた。
「クロ! あなたはあの子達を追いなさい。
そしてもしもの時は、命懸けで守るのよ!
いいわね?」
「ハッ! 君命とあらば……!
しかし、御館様は?」
「私は何が起こっているのか、色々と情報を収集してみるわ。
場合によっては、私が手加減無しで、動かなければならなくなるかもしれないわね……!」
「お、御館様が本気を出される……!!」
クロはゴクリと喉を鳴らした。
彼の主人が本気で動くということは、国の1つや2つが易々と壊滅するだけの力が、いや、もしかしたらそれ以上の巨大な力が動くということに等しい。
(…………一体何が起こるというのだ……?)
クロも少女と同等か、あるいはそれ以上の嫌な予感を抱かずにはいられなかった。




