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―半分の存在―

 この過去編では差別的な行為の描写もありますが、当然現実で推奨されるものではありません。

 リザンは一族の中で、迫害の対象となっていた。

 

 ベーオルフの手前、大人達は表立った行動をとらなかったが、それでもベルヒルデとリザンの母娘(ははこ)へと友好的に接する者は殆どいなかった。

 更に子供達にいたっては遠慮が無く、リザンはよくイジメられていた。

 その所為で彼女は、両親以外の者にはまず近づこうとしない子供へと育ってしまっていたのである。

 

 それ故にリザンは、いつも孤独だった。

 そして独りの時は、いつもこの花畑に来ている。

 ここは「花が好きなリザンの為に」と、母が一生懸命に造ってくれた場所だ。

 

 だからリザンは、ここの花を見ていると母に励まされたような気持ちになるし、この花畑を心の支えにしている。

 この花達に囲まれていれば、たとえ辛いことがあってもそれが紛れるのだ。

 

「父様……大丈夫かなあ……」

 

 今、リザンが気に病んでいるのは、邪竜王との決戦の地へと出征した父のことであった。

 既に決戦は、始まっていることだろう。

 

 リザンは父が如何(いか)なる敵にも負けないと信じている。

 直接に父が戦っている姿を見たことは無かったが、母から聞かされた父の武勇伝によって、そう信じ込んでいた。


 そんな父にもしものことなど、起きるはずがないと思いたい。

 しかしそれでは父との別れ際に感じたあの不安感は、一体何だったのだろうか。

 あれは父と離ればなれになる寂しさから来るものではない、とリザンは思う。

 

 何か……絶望的な何かを孕んだ不安感だったのだ。

 それは今もなお続いている。

 

「……心配しても仕方がないかな……?」

 

 リザンは不安な気持ちを、無理やり振り払おうとした。

 いくら心配したところで結果が出てみなければ、泣くにしても笑うにしても、彼女には何もすることができないのだ。


 とは言え、不安などは簡単に振り払えるものではない。

 ただ、リザンの生来の性質は楽天的なものだった。

 イジメられた所為で歪んでしまい、すっかりと影を潜めてはいるが、本当は明るくてのんびりとした性格をしているのだ。


 そうでなければいくら好きだからといっても、こんな所で1時間以上も空を眺めてはいないだろう。

 そんな持ち前の性格で何とか不安を振り払った――つもりになった――リザンは、家路に戻ろうと立ち上がり、トテトテと歩み出すのであった。

 

「あ……」

 

 リザンが花畑から出ようとしたその時、彼女は前方に複数の人影を見つけて、その歩みを止めた。

 その人影と彼女は50mほど離れていたが、その内の1人が誰なのか、それはすぐに分かった。

 

「ジョージ君……」

 

 リザンは後退(あとずさ)る。

 ジョージとはいつも彼女をイジメめている子供達の、リーダー格であった。

 彼の姿だけは、どんなに遠くから見てもリザンには分かる。


 背が他の子供達よりも少し高い所為もあるが、それを差し引いてもすぐにジョージだと分かった。

 それだけリザンにとっては、怖い相手なのである。

 

 だが、怖いからといって逃げる訳にもいかなかった。

 50mという距離の差では、丈の長いワンピースという、走るのには不向きな服装をしているリザンの脚では、とても逃げ切れないだろう。

 

 そもそも逃げ込むべき自宅のある方向から、イジメっ子達が来るのだ。

 どこへ逃げればいいというのだろう。

 周囲は一面野原であり、隠れることもままならない。

 

 結局、リザンはオドオドとしながらその場にとどまった。

 まあ、下手に逃げ出せば、それ自体が理不尽なイジメが開始される切っ掛けとなりかねないのだから、賢明な選択なのかもしれないが、彼女にとっては最悪の結果になることに変わりはない。

 そもそもの子供達の目的が、彼女をイジメる為なのだから。

 

 やがてジョージを先頭に、5人の子供達がリザンの前にやってきた。

 その誰もがリザンと同年代の年齢で、活発ながらもどことなく生意気そうな雰囲気を醸し出している。

 しかし同時に、その表情からは何処となく感情が希薄であるようにも見えて、やはり何かが人間とは違うのだと思わせた。


 それでも、彼らは子供だ。

 いかに竜をも倒す戦士の一族の血を引くとはいえ、普通の人間の子供と大きく違うものは見当たらなかった。

 

 ところが、ジョージだけは特別だった。

 彼は何中性的で整った容貌をしていたが、その物腰は力強く風格さえ感じさせる。

 雰囲気だけならば既に、立派な大人と変わらないかもしれない。

 彼には自身が戦士の一族の一員であるという自覚と誇りが、既に備わっているのだろう。


 もっともその「誇り」が、リザンにとっては厄介だった。

 高すぎる誇りは、それを共有しない者を軽んじ、そして排除しようとする。

 これによって理不尽に命を奪われた者は、決して少なくはないだろう。

 それはこれまでの人類の歴史が証明している。

 

 だからこそ、それが他人事ではないリザンにはこのジョージが恐ろしく、彼が放つ威圧感は大人のそれと大差ないように感じていた。

 

「おい半分! 

 こんな所でなにやっているんだ?」

 

 ジョージは詰問口調で問う。

 「半分」とは、彼らが付けたリザンのあだ名である。


 彼女には斬竜剣士の血が、半分しか入っていないからだ。

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