―脱 出―
プロローグなので、ちょっと短めです。
波濤のように大地がうねり、飛沫のように土砂が降り注ぐ。
激しい大地の振動に翻弄され、メリジューヌの意識は徐々に薄らいでいった。
大量の土砂と一緒に攪拌される彼女の身体を襲う力は凄まじく、おそらく身体中に骨折を負い、更に内臓にも深刻なダメージを受けているに違いない。
もしもここで意識を失えば、彼女はもう二度と目覚めることはあるまい。
その命が尽きるのも、そう遠い先のことではなかった。
(なんとか……なんとかしなければ……)
メリジューヌは振動に翻弄される肉体と、意識を切り離すが如く、できる限り冷静に現状を打破する方法を思索した。
そして彼女は、自らの掌に握りしめられていた存在に思い至る。
彼女にとって唯一の攻撃手段だとはいえ、あれほどの激しい振動の中で手放さなかったのは、奇跡に近い。
(残る力を……!)
メリジューヌ葉、手にした棒状の物体の先端に、意識を集中させる。
するとそこには見る見るうちに、巨大なエネルギーの塊が姿を現した。
それを超振動する地面に目掛け、叩きつける。
すると振動していた地面は、粉々に吹き飛んだ。
当然、地面が消滅したことにより、メリジューヌは宙に投げ出され、彼女の身体は辛うじて振動の束縛から自由になる。
その隙を逃さず、彼女はただこの場から1秒でも早く逃れたい一心で、転移魔法による脱出を試みた。
勿論、転移場所を設定している余裕など無い。
下手をすれば──いや高確率で助からないだろう危険な賭けだ。
なんらかの障害物の中に実体化し、その瞬間に彼女の運命は終わるかもしれない。
だが、やるしかない。
やらなければ、より確実な死が待つだけだ。
そして転移魔法が完成したまさにその瞬間、そこでメリジューヌの意識は途切れた。
ただ――、
「ちっ、腐ってもテュポーンの娘ね……」
女のそんな憎々しげな声を、聞いたような気がした。
「……まだ、あれだけの力が残っていようとは……ね」
メリジューヌを大地の攻撃魔法で嬲っていた女――エキドナは半ば呆れたように、粉々に砕けた大地を見つめていた。
ただ彼女の足下だけは、何事もなかったように原形を留めており、それが拡がるように周囲の地面も修復されていく。
「でも、まあいいわ。
あれじゃあ、どのみち助かりはしないでしょ。
かえって好都合よ」
と、会心の表情を浮かべるエキドナの姿は、化けていたザンの姿から本来の物へと戻りつつある。
「それに……要はほんのちょっとの間だけ、テュポーンを騙せればそれでいいんだし……。
問題は無いわねぇ……。
ふふふ……」
と、エキドナは小さく含み笑いを漏らした。
その笑みは美しくはあるが、同時に酷く醜悪にも見えた。




