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―首脳会談の準備―

 ブックマークありがとうございました。

「後はテューポエウス殿と一度でも会談し、本当に国を任せられる人物かを見定める機会が欲しいものだが……。

 交戦中の国に私が出向く訳にも行かぬし、それはそちらも同じだろうし……」


 そんなアルベルトの言葉に、メリジューヌは、

 

「いえ、父でしたら単身でこの国に(おもむ)いても、問題無いと思います。

 たとえ万の兵に取り囲まれても、脱出は造作もないことでしょうから」


 と、誇らしげに言うが、すぐにシグルーンからツッコミが入った。

 

「では、それほどの実力を持つ者と、このアルベルトが直接会うことが、かなり危険であるということも分かりますよね? 

 テューポエウス殿自身が、刺客にならないという保証は無い訳のですから」

 

「あ、はあ……そうですね……。

 やはり、交戦中の敵国同士の王が会合を持つことは、難しいのかもしれません。

 信用しろと言うのも、現状では難しいでしょうし……」

 

 確かにアルベルト王側の立場に立ってみれば、テューポエウスとの会談はかなりの危険が生ずる。

 そしてアルベルト本人が覚悟を決めて望んでも、おそらくは側近の者がそれを許さない。

 万が一王に何かあれば、国は大いに乱れ、最悪の場合は滅びるのだから。


 また、この状況を利用して、アルベルトの暗殺を企てる勢力も現れるはずだ。 

 故に、ことはアルベルトの絶対的な安全を保証しつつ、極秘裏に進めなければならない。

 しかし現状では、それもなかなか難しいだろう。

 

「それじゃあ……、まず私がタイタロスへ行って、その四天王かもしれない人と会ってみるよ。

 それで信用できる人だと判断できたら、そこの王様に会ってもらうってことでどう? 

 勿論、その時は私も護衛につくよ」

 

 今までことの成り行きを傍観していたザンの突然の提案に、シグルーンとアルベルトは意外そうな表情で彼女の方を見た。

 

「リザンちゃん……。

 確かに悪い話ではないけど……。

 また危険な目に会うかもしれないのよ?」

 

 シグルーンの心配げな言葉を受けて、ザンはあっけらかんと、

 

「大丈夫だよ。

 この()の親なら悪い奴じゃないと思うし、もしも危なくなったら、すぐに逃げてくるから」


 そう言った。

 しかし、すぐに表情を引き締める。

 

「それに……そのテューポエウスって人が本当に四天王なら、エキドナの情報を知っているかもしれない。 

 あのエキドナっていう四天王は、間違いなく敵だ。

 たぶんこの前のリヴァイアサンの襲撃も、あいつが裏で糸を引いていたはずなんだ。

 だから、そろそろ決着を付けないと……」

 

 そんなザンの目は、強い決意の色で彩られていた。

 しかしそれは、邪竜に対する復讐を誓う為の決意ではなかった。

 復讐と憎悪の影はその目の中には見えず、それとは対極の光に彩られている。

 

「リザン……。

 あなたはまだ戦いをやめる訳にはいかないのね……」

 

 シグルーンは(まぶた)を閉じ、ゆっくりと左右に首を振る。

 姪の目を見れば、もう決意を変えさせることはできないことが分かる。

 しかしシグルーンのその顔にあるのは不安と諦めの色だけではなく、わずかに喜びでほころんでもいる。

 

(姉様と同じ目をしているわね……何かを守ろうとしている目……)

 

 もし、ザンが復讐の為に戦いを続けるのならば、シグルーンは何が何でも彼女の旅立ちを止めようとしたことだろう。

 だが、これからの彼女の戦いは違う。

 過去の遺恨の為に戦うのではなく、未来を掴む為の戦いを、彼女はようやく始めようとしている。

 だからシグルーンには、彼女を止めることはできなかった。

 

「仕方がないわね、リザンちゃんに任せましょう。

 それじゃあ、そういうことで義兄(にい)様もいいわね? 

 メリジューヌ殿下も、人間兵器がそちらに行くことになりますが、よろしいでしょうか?」

 

「人間兵器って…………」

 

 ザンは心外そうであったが、半ば事実であることは、この場にいる殆どの者が認めるところであった。

 

「あ、はい。

 リザン様でしたら、私共としても歓迎致します。

 剣を合わせた際に、真っ直ぐで優しい心根の方だと悟りましたので……」

 

 事実、ザンはメリジューヌよりもはるか上を行く実力を持ち、その気になればその命を奪うことも容易(たやす)かったはずなのに、敵であった彼女に対して怪我らしい怪我を負わせなかった。

 少なくとも、彼女は他者の痛みを感じることができる人間だと、メリジューヌは思う。

 

(それに……「竜の天敵」というあの言葉……。

 リザン様の存在は、お父様に害成すことになるかもしれませんが……助けにもなるかもしれません)

 

 メリジューヌは不吉な予感を抱えていた。

 タイタロスはこのアースガルよりも、巨大な脅威と向き合っているような気がしてならない。

 度々城に訪れるあの邪悪な気配は何者なのだろうか――。

 

 そして何故か最近、母を亡くした時の怒り狂った父の姿が、頭の中に幾度となく浮かんでは消えてゆく。

 メリジューヌが忘れようと必死に努めていたはずの、遠い過去の記憶が――彼女の目が見た最後の光景が、何故(なぜ)こうも頻繁に蘇ってくるのだろうか。

 ただの思い過ごしだと思いたかったが、不安を払拭する材料は何1つ無かった。

 

(万が一の時の為に、少しでも多くの力を借りることができる下地を作っておくに、越したことはないでしょう……)

 

「よし、決まりね。

 それじゃあ、クラサハードとタイタロスの親交を深める為に、メリジューヌの殿下の歓迎会でも開きましょうか!」

 

「「「「…………」」」」

 

 あれだけ盛大なパーティの後だ。

 シグルーンの言葉に、その場にいた殆どの者がうんざりとした表情になったのは言うまでもない。

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