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―会談のような尋問のような―

 昨日は急用で更新出来ませんでした。スミマセン。

 アースガル城のとある一室――そこはガランとした何もない空間で、しかも壁には鉄板が張り巡らされており、窓1つ無い。

 そんなある種の独房とも言える、と言うか独房そのものの中心に備え付けられた椅子には、メリジューヌがいたたまれない様子で座っていた。

 

 しかし、それは当然のことなのかもしれない。

 こんな部屋に入れられただけでも、メリジューヌはかなりの精神的圧迫を受けているはずだが、更にその正面にはシグルーンが椅子に座して彼女を睥睨(へいげい)していたのだから。

 

 その上、メリジューヌを取り囲むようにザンとフラウヒルデ、そしてファーブを頭の上に載せたルーフの姿があった。

 いかにメリジューヌが並外れた実力者であっても、このメンツに囲まれては、最早逃げようも無い。

 ついでに、何故かアルベルト・クラサハードの姿もある。

 

「さて、詳しい事情を話してもらおうかしら、タイタロス皇国の者よ」

 

「!」

 

 シグルーンの指摘を受けてメリジューヌは、驚愕の表情を露わにした。

 すぐにそれは「しまった」とでも言うように、緊張に強張る。

 

「図星ね?」

 

何故(なぜ)、お分かりになられたのですか……? 

 まさか(とも))の者から……?」

 

「いいえ、彼らは一言も喋っていないわよ。

 立派なものよ、彼らの沈黙は信念からくる物だというのは、目を見ればすぐに分かるわ。

 たとえ拷問にかけたとしても、まず何も吐かないでしょう。

 だから、無理に聞こうとはしていないし、彼らを少しも傷付けてはいないわよ?」

 

「……そうですか……」

 

 メリジューヌは、ホッと安堵の溜め息を()いた。

 

「あなたの素姓は、簡単に推測できるわよ。

 今クラサハードへ侵攻しているのは、タイタロス皇国だもの。

 その皇国にとって、クラサハードを攻略する上で、我がアースガルは最も邪魔な存在でしょうからね……。

 諜報員(スパイ)を送り込んできても、不思議ではないでしょう。


 それ以前に、リザンちゃんの話だとあなたは私の存在を知っていたと言う話だし、国外で私のことを詳しく知る者なんて、タイタロス皇王ぐらいしか考えられないから……。

 だから皇国との関係は、疑いようもないわ」

 

「何かタイタロス皇王との間に、因縁でもあるのですか、母上?」

 

 フラウヒルデの問いにシグルーンは応えず、メリジューヌに語りかける。

 それがフラウヒルデの問いに対する、回答へと繋がっていた。

 

「……御父上はまだ御健在なのでしょう? 

 メリジューヌ殿下」

 

「……何故、(わたくし)の名を……?」

 

「やっぱりそうなのね……。

 もう100年以上前だけど、あなたは私に会っているのよ。

 あれは建国間もないタイタロスへ、私が視察に赴いた時のことよ。

 あの時見たあなたは、今よりもまだ幼い容姿だったけれど、大きく変わってはいないわ。


 何よりも、その閉ざされた両目は、簡単には忘れられないものだしね。

 それにテューポエウス殿は、一目見て普通の人間では無いと分かったし……あなたがまだ生きているのならば、その父君が生きていても不思議ではないでしょう」

 

 シグルーンの言葉に、ザンを始めとするその場にいた者は、小さく驚いたりお互いの顔を見合わせたりした。

 この十代前半の年齢にしか見えない少女が、既に100年以上の(よわい)を重ねていることが意外だったのだ。

 そしてそれは今回の事件が、ただの人間の国同士のいざこざではないことを物語っている。

 

「そ、それではシグルーン様、タイタロスはこの100年以上の間、たった1人の王によって治められているという噂は、本当だったのですかっ!?」

 

「ええ、事実でしょうね」

 

 アルベルトの驚きとは対照的に、シグルーンはあっさりと断言した。

 それを聞いて彼は、脱力した様子で壁に背からもたれかかり、小さく呻いた。

 

「シグルーン様みたいのがもう1人……。

 手強いはずだ……」

 

 敵国の王が、人外の力を持つ強大な存在だと知ったアルベルトの顔面は、蒼白となった。

 もしもテューポエウスがシグルーンと同等の力を持っているのならば、クラサハードに勝ち目は全く無いと言っても良い。

 そんな義兄の動揺をシグルーンは無視して、尋問を続ける。

 

「確か、その時に会ったテューポエウス殿とは非公式にではあるけど、『私達が戦えば周囲にも多大な被害が出るだろうし、お互いに益もないから……』と、不可侵協定を結んだはずですけど?」

 

 そんなシグルーンの言葉に、メリジューヌは心外そうな様子で反論した。

 

「だからこそ私はこがこの地へ訪れたのです。

 先日、アースガルで巨大な力が振るわれたという情報を得ました。

 何らかの兵器の実験など、戦力強化の疑いがあり、その上でもしアースガルが我が国と交戦中のクラサハードに力を貸すようなら、これは重大な協定違反となります。

 私はその真偽を確かめに来たのです」

 

 非難めいたメリジューヌの言葉を、シグルーンは動じることなく正面から受け止めた。

 そして、彼女も力強い口調で指摘する。

 

「しかし、あなた方のした行為こそ、重大な協定違反ではないでしょうか? 

 あなたの偵察結果が、このアースガル攻略の為に使われないという保証は何処にもありません。

 実際、タイタロスは他国への侵攻の際に、有能な諜報員による情報収集によって、戦況を有利に進めているという話を私はよく耳にします。

 その諜報員とは、あなた方のことではないのですか?」

 

「そ、それは……」

 

 メリジューヌはシグルーンにことごとく図星を言い当てられて、言葉を詰まらせた。

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