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―後半戦開始― 

「…………命までは取ろうと思いませんが……。

 仲間を救う為にはやむを得ません……。

 最早一切の手加減はいたしませんので、万が一のことを覚悟しておいてください」


 メリジューヌは槍を構える。

 しかしザンは、さほど緊張した様子を見せない。

 

「ああ、そうしてくれ。

 そうじゃないと、私も手加減しなくちゃならないからね……」

 

「なんですって……? 

 先程まで私に圧倒されていた御方が、何を申されるのですか。

 まさか今まで手を抜いていたとでも……?」

 

 なんとなく馬鹿にされたような気分になって、メリジューヌは眉間(みけん)に皺を刻む。

 しかしザンは笑う。

 

「別に手は抜いてないよ。

 ただ、さっき言っただろ? 

『久々に戦う』って。

 勘が少し鈍っていたかもしれないな。


 それに『危なく寝過ごすところだった』……ともね。

 間違って酒を飲んで倒れちゃってさ。

 20~30分でアルコールは抜けるかと思っていたけど、まだ抜けていないかったみたいだね」

 

 そう語るザンの顔は、暗闇の所為(せい)で確認しにくいが、微かに赤みを帯びていた。

 何処となく楽しげな様子も、アルコールの所為だったのかもしれない。

 

「……なんですって?」

 

 メリジューヌは唖然とする。

 確かに今思い返してみれば、先程までのザンの動きは、わずかに足元がふらついていたような印象があった。

 それでも常人よりもはるかに素早く鋭い動きだったので、彼女は特に気にしていなかったのだが、あの動きが酔った状態で行われたというのであれば、少々事情が異なってくる。

 

 メリジューヌにはザンの本来の動きが、どれだけのものになるのか想像がつかなかった。

 もしかしたら、自身と互角――あるいはそれ以上か。

 だとすれば、確かに手加減の必要はない。

 いや、そんな余裕は無くなる。

 

「でも、あんたから重い一撃を食らったおかげで、完全に酔いが覚めた。

 これからの私は、さっきまでの私とは全然違うからね?」

 

「……承知いたしました。

 しかし、あなたに私のこの攻撃が、見切れるのでしょうか?」

 

「撃ってきな。

 見切れるかどうか、すぐ分かる」

 

「では、遠慮なく…………ハッ!」

 

 メリジューヌは再び神槍百乱突きを繰り出した。

 その数、秒間数十発――いや、百を超えているかもしれない。

 その凄まじいまでの多段突きは、彼女の前面の空間を埋めつくすかのように撃ち出され、まさに刺突攻撃の壁と化してザンへと襲いかかる。

 

 最早、通路全体を埋めつくすその攻撃を回避し、メリジューヌに攻撃を加えることなど、不可能に見えた。

 まさに攻防一体の技だと言えよう。

 

 しかしメリジューヌとて、いつまでもこれだけの突きの連撃を繰り出せるはずもない。

 いつかは疲れ、技を解除せざるを得ないだろう。

 また、ザンには後方に逃げ場がある。

 このまま、後方へ逃げ続け、メリジューヌの疲れを待てば勝機はある。

 

 ところがザンは後退せず、あろうことかメリジューヌの攻撃の真っ只中へと、突っ込んできた。

 

「馬鹿なっ、死ぬ気ですか!?」

 

 周囲に金属が(こす)れ合うような、不快な音が響き渡った。

 メリジューヌの腕には、槍が何かを捉えた確かな感覚が伝わってくる。

 直前の金属音からして、おそらくはザンの鎧部分を貫いたのは確実か。

 

「!?」

 

 だが、メリジューヌは驚愕した。

 彼女の眼前からは、ザンの姿が忽然とかき消えていたからだ。

 そして次の瞬間、メリジューヌはまたもや背後に気配を感じて、慌てて振り返る。

 

「何十、何百に見える槍の攻撃だって……所詮それは残像。

 実際に沢山の槍がある訳じゃない。

 それなら、剣でちょっと軌道をずらして隙間を作ってやれば、今の技をくぐり抜けることなんて難しくないよ」

 

 と、そこにはザンが何事も無かったかのように立っている。

 

(そんな馬鹿な……。

 この私が全く感知できないほどの動きをして、あまつさえ背後に回り込むなんて…………)

 

「くっ……!」

 

 メリジューヌは素早く退(しりぞ)いた。

 槍の能力を最も効率良く発揮させる為には、ザンとの距離があまりにも近すぎる。

 このままでは攻撃はおろか、防御すらままならない。

 しかし、ザンも素早く踏みこんで、間合いをそれ以上広げさせなかった。

 

 ザンはメリジューヌ目掛けて、剣を振るう。

 勿論殺すつもりは無いので、手加減はしていたが。

 

「!?」

 

 だが、今度はザンの方が驚愕する番だった。

 眼前からメリジューヌの姿が消失し、次の瞬間には彼女の後方に姿を現して槍を突いてきたのだ。

 

「うわっ!?」

 

 ザンは慌ててその攻撃を回避し、すぐさま反撃に転じようとしたが、メリジューヌはまたもや姿を消してしまい、今度はザンのはるか前方に現れる。

 

(速い……いや違う。

 どんな歩法を使ったって、私の目で捉えきれないスピードを出せるはずがない。

 大体、そんな高速で移動したら、衝撃波が発生するはずだ)

 

「…………短距離瞬間移動(ショート・テレポート)か……」

 

「その通りです」

 

 短距離瞬間移動――ザンの言葉に、メリジューヌは首肯(しゅこう)した。

 本来、空間転移魔法を発動させる為には、数十秒から数分の準備時間を要する。

 しかし実のところ、ただ移動するだけならば、それほど時間をかける必要はない。

 では、何故それだけの準備時間が必要となるのか――それは転移地点の状況を把握する必要があるからだ。

 

 もしも転移座標の状況をよく把握せずに転移を敢行した場合、河の中に放り出されるぐらいならまだいい。

 しかし、もしも数百mもの上空や、あるいは地中深くに転移してしまえば、それはそのまま死に繋がる。

 だから転移前にはまず、転移先の安全を確かめる必要があり、その為に長い時間を必要とするのだ。

 

 つまり転移魔法と同時に、千里眼の術も使用しなければならないことになる。

 しかし短距離の瞬間移動であれば、転移先の状況が目で確認できるのだから、それほど時間をかける必要は無くなる。

 とは言え、そんな目で見える範囲の距離をわざわざ魔法を使用して移動する利点は殆ど無いし、長距離転移よりも危険が少ないとは言え、リスクが高すぎるのも事実だ。


 それを戦闘という、一瞬の判断ミスが命取りとなるような緊迫した状況下で、迷わずに用いたメリジューヌの度胸と、なによりも術を操る確かな手腕にザンは舌を巻いた。

 

「どうやらスピードでは、あなたよりも私の方が劣るようですが……。

 だからと言って、私が不利と言う訳でもありません」

 

「確かにね……。

 これで私は下手に動けなくなった……」

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