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―連続突き―

「!!」

 

 メリジューヌは慌てて後方に、飛びすさる。

 その結果、目標を外したザンの剣は、床を叩き割った。

 

「……私の攻撃を全て回避し、なおかつ反撃してくるとは……。

 なかなかお強い」

 

 メリジューヌは感嘆の声を上げた。

 殺さぬように……と、手加減した攻撃ではあったが、それでも彼女が命中させるつもりで放った攻撃を、身体にかすらせすらしなかった者など、父以外では記憶に無かった。

 

「あんたこそ、結構やるじゃない」

 

 ザンもまた、感嘆の声を上げた。

 少なくとも目の前にいる少女の実力は、以前戦ったことがある竜の血に寄生されて人外の力を得た男――リチャードよりもはるかに高いと思われた。

 つまり、人間のレベルを大きく超越している。

 

 ザンは思わず顔に笑みを浮かべる。

 そんな彼女の気配を感じ取ったメリジューヌは気分を害したようで、眉宇(びう)をひそめる。

 

「……何が可笑(おか)しいのでしょうか? 

 私はあなたに対して、手加減の必要は無いと判断しました。

 もう、笑っていられる余裕はなくなりますよ」

 

「さ~て、どうだかね?」

 

 メリジューヌの言葉を、ザンは軽く受け流す。

 

「痛い目にあってから後悔しても、遅いですからねっ!」

 

 メリジューヌは槍を高く振り上げた。

 彼女は小さな見かけとは裏腹に、かなりの腕力を有しているようだ。

 そうでなければ、とても自身の身長と同等の長さの、しかも金属性の槍を振り上げられるものではない。 

 少なくとも、成人男性でも「軽々と」と言う訳にはいかないだろう。


 メリジューヌは勢い良く、ザンの脳天目掛けて槍を振り下ろす。

 しかしザンは右手方向に軽く移動しつつ前方に踏みこんで、襲い来る槍を回避した。

 

 本来、槍などのリーチの長い武器は、大きく振り回しているだけでも敵はなかなか近づけず、ある程度距離の離れた位置にいる者にとっては、かなりの脅威となる。

 しかし、一度(ひとたび)(ふところ)に入られると、その形状の長さ故に細やかな動きが難しく、密着状態の敵に対しては、全くの無防備とも言えるほど攻撃手段が限定されてしまうという欠点を持っていた。


 それを熟知した上でザンは、接近戦に持ち込もうと前に踏みこんだのだろう。

 だが、そんな彼女の踏み込みよりも、メリジューヌの槍を引き戻すスピードの方が速かった。

 彼女は槍を引き戻した次の瞬間には、もう突きの体勢に移行し、そして無数の突きをザン目掛けて繰り出した。

 

「!!」

 

 まるで通路全体を埋めつくすかの如く広範囲に(わた)って広がる、凄まじいまでの連続突きがザンを襲う。

 メリジューヌの(そう)術「神槍百乱突(しんそうびゃくらんづ)き」である。

 

「がっ!」

 

 ザンはメリジューヌの攻撃を食らい、弾き飛ばされた。

 いや、自ら後方へと跳んだのか。

 無論、攻撃を完全に回避できてはいない。

 彼女の上げた短い悲鳴が、それを物語っている。


 だが、もしも引かずにそのまま突き進んでいれば、彼女の身体に穴の1つや2つが空いていたとしても不思議ではなかっただろう。


 更にメリジューヌの追い討ちが続く。

 彼女は高速で踏み込み、まだ態勢を整え切らないザン目掛けて槍を突き出す――と同時に、槍の先端の光刃(こうじん)は風船の如く見る見る内に球形へと膨れ上がり、光の(つち)に変化した。

 その光球の直径は、1mを超えている。

 

 メリジューヌが「壊槌槍(かいついそう)」と呼んでいる光の(つち)が、ザンの全身に叩き込まれた。

 彼女は受け身を取ることもできずに、通路の壁に激突する。

 壁はバラバラと崩れ落ち、その衝突の激しさを物語っていた。

 

「……終わりです。

 槍で貫かなかったので、生命(いのち)は取り留めているでしょう。

 ですが、おそらく骨のいくつかは粉砕骨折しているはず……。

 もう戦えないはずです」

 

 メリジューヌは何処となく、後味が悪そうに呟いた。

 そして暫しの間、倒れ臥したザンの姿を見つめていたが、一向に動き出す気配がないことを確認すると、彼女に背を向ける。


「さて……、皆を救いにいきますか」

 

()がさないって、言ったはずだけど?」

  

 唐突に背後から声をかけられて、メリジューヌは慌てて振り向いた。

 そこにはいつの間にかザンが立ち上がり、剣を構えている。

 

「ま……まだ動けるのですか……!?」

 

「ああ、この程度なら、怪我の内に入らないね」

 

「…………」

 

 メリジューヌは唖然とした。

 怪我の内に入らない──そのザンの言葉の真偽のほどを、彼女は計りかねていた。

 

(単なる強がり……? 

 いえ、実際に彼女は元気そうですし……。

 ……相手は人間だと思わない方が、良いのかもしれませんね……)

 

 緊張するメリジューヌ。

 そんな彼女に対して、ザンは楽しげな笑みをこぼす。

 

「……何が可笑しいのですか? 

 これからまた痛い目に遭うというのに……」

 

「いや、実際に楽しいと思ってさ。

 戦いなんて嫌いだと、自分では思ってたんだけどね。

 でもこうやって久々に戦ってみると、なんだかしっくりくるんだ。

 今までの人生、戦いばっかりだったから……戦うことはもう、自分の一部なのかもしれないな……」

 

「……………………」

 

 メリジューヌはザンの言葉に、共感めいたものを覚えた。

 確かに彼女自身、今までに数え切れないくらいの戦いを重ねてきている。


 時として戦いは、忌むべき破壊と死を生む。

 しかしそれでも、自身に戦える力があることを──そして自らの信念と、守るべきものの為に戦う意義を――それを知ってしまった者は、もう戦いを捨てることはできない。

 捨ててしまえば、何か大切な物を失うような気がした。

 

 それはおそらく目の前の女性も同じなのだろうと、メリジューヌは思った。

 だから今は敵対していても、彼女を憎む気にはなれない。

 そして「楽しい」と言う気持ちも、分からぬではなかった。


 確かにこの戦いは、憎しみも殺意も伴わない。

 その為に何処か、好敵手同士の技の競い合いのようでもある。

 しかしだからと言って、彼女達はお互いにこの戦いから引き下がる訳にはいかなかった。

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