―いつかの食堂で―
ブックマークありがとうございました。
ちょっと短めです。
「あ、お客様方ははこの前の……。
ちゃんと仲直りしたんですね?」
客で混雑した食堂の席にザン達が座ると、注文を取りにきた店主がかつてこの場で行われた2人の喧嘩の結末を問う。
ザンとルーフは思わず苦笑した。
「今日は祭りを観に来たのですか?
それとも、ずっとこの町に滞在していたとか……?」
「あ、今城のほうに滞在しているんだ」
ザンが答えると、店主は少し驚いたかのような表情をしたが、すぐにそれは、何処か納得したかのような面持ちへと変わる。
「それじゃあ……やはり、領主様と何かご縁でも……?」
「うん、フラウヒルデとは生き別れの従妹だった」
「ほう、フラウヒルデ様と……。
それはお会いできて何よりでした。
当店としても領主様の御親族をおもてなししたいところですが、今日は祭り故に混み合っておりますので、以前のような大量注文は勘弁してくださいよ?」
と、店主。
どうやら彼は、ザン達がまた常軌を逸した量の注文をするのならば、お引き取り願おうと思って顔を出したようだ。
実際、単に注文を取りにくるだけならば、他の従業員に任せておけばいい。
「ああ、今日はオヤツ程度のつもりだから。
え~と、ビーフステーキ……肉は1kg、ミディアムレアで。
それとフルーツパフェ――それぞれ2人前ね。
できる?」
「これでオヤツ程度ですか……?
かしこまりました」
店主はちょっと引き攣ったような顔で応じる。
今しがたのザンが注文したものは、ビーフステーキだけでも普通の女性や子供ならば、まず食べ切れない量だ。
いや、大人の男性でもきついかもしれない。
その上でパフェである。
これがオヤツ程度と言うのだから、尋常ではない。
しかし、店主の笑みを更に引き攣らせたのは、次のルーフの一言であった。
「あ、僕も同じのをお願いします」
「は……?」
暫し沈黙する店主。
「あ、あの……。
もしかして、1人で2人前ずつなのですか?
つまり、合計ステーキ4つ、パフェ4つですと?」
「そうだけど?」
ザンとルーフは、「何を当たり前のことを聞いてるの?」とでも言うかのような視線を、店主へと向けた。
「………………か、かしこまりました……」
何処かやつれたような顔をして下がっていく店主の様子に、ザンとルーフは、
「随分と加減したのに、まだ多かったのかな?」
「少ないでしょ、あの程度なら?」
と、首を傾げるのだった。
なんだか食事量に関しては、ザンは元よりだが、ルーフも完全に一般の常識から逸脱してしまった感がある。
たぶん、もう引き返せないだろう…………合掌。
それから暫くの間、2人は沈黙したまま料理が来るのを待っていた。
改めて2人で向き合って座っていると、特にこれと言った話題が見つからないようで、ザンは落ち着き無くコップの水をチビチビとしきりに飲んでいた。
だが、更に暫くしてから、彼女は何気ない口調で、ルーフへと問いかける。
「そういえば……この前の話、うやむやになっちゃったけど、考えておいてくれた?」
その言葉にルーフは少し顔をしかめたが、落ち着いた様子で、
「僕がザンさんの旅に同行するのをやめた方がいい、って話ですか?
……それなら僕の考えは、変わっていませんよ。
あの頃と違って、今の僕には力があります。
そりゃあ……まだ未熟かもしれないけど、もう『足手纏い』なんて言わせませんからね」
と、キッパリとした口調で答える。
「………………」
ザンは暫くの間、ルーフの顔を見つめながら無言でいたが、不意に小さく微笑んだ。
「……そう言ってくれると思っていたよ。
私もさ、この胸の傷痕を跡形も無く消してくれたルーフの能力は、頼れると思っているんだ。
だからこれから先は、お前が『嫌だ』と言っても、付き合ってもらうつもりだから……」
「相変わらず一方的ですね……。
まあ僕も、とことん付き合うつもりではいますけどね」
「うん、よろしくな。
それと、あの時はごめんな?」
ルーフの答えに、ザンは安堵したように笑う。
なおこれが、傍目にはプロポーズのようなやり取りであったということに2人が気付いたのは、かなり年月が経過してからのことであった。
明日は所用で更新を休む予定です。




