―試合の後―
ブックマークありがとうございました。
再開しましたが、構成上の都合でちょっと短めです。
(こんなにも……力の差が…………!)
フラウヒルデは茫然とした表情で、天井を凝視し続けていた。
そんな彼女へザンは、
「大丈夫か……?
急所は勿論外してるけど、打撲くらいはしていると思うんだ」
心配そうに声をかける。
その呼びかけにフラウヒルデはハッと我に返って起き上がり、慌てて深々と頭を下げた。
「い、いえ、大丈夫です。
ありがとうございました!」
「いや、礼だなんて……。
なんか、恥をかかせちゃったみたいで、ゴメンね?」
「いえ、私が本気でやってくれと言ったのですから……。
恥なんて思ってませんよ。
それに、皆も私が負けたことなんか、気にしていないと思います」
「え? 皆って……?」
キャ──ッ!!
ザンが訝しげに眉根を寄せた瞬間、騎士団の面々がザンへと殺到した。
「うわっ、ななななな……?」
もみくちゃにされるザン。
そんな彼女に対して、女達は潤んだ視線を向けながら──、
「凄かったです」
「感動しました」
「どんな修行したら、あんなに強くなれるのですかぁ?」
「お姉様って、呼んでもいいですかぁ?」
「私も叩きのめしてください」
──などと、賞賛の声と質問攻めである。
一部変なのも混じっているが、シグルーンのお膝元であるここだと、そんなにおかしくも感じない……というのもおかしな話だが。
「うわ……こんな人ばっかりなんですか、ここ……?」
ルーフは先程ザンと会って狂喜乱舞していたアイゼルンデの姿を思い出しながら、どん引き状態だ。
一方、そのアイゼルンデはザンに殺到する騎士達には混じらず、心配そうにフラウヒルデへと歩み寄る。
「大丈夫、フラウ?」
「ああ、巧く手加減してくれているよ。
やっぱり、想像していた通り……いや、それ以上に強い。
どうだ、従姉殿は凄いだろう?」
「ええ……さすがにベルヒルデ様のお嬢様ね」
「違う……!
ベルヒルデ様の娘だから、強い訳ではないのだ。
強くなくては生きていけない──そんな苛酷な人生を送ってきたから、あの人は強いのだ……」
「フラウ……」
「だから……私は少しでもあの人の役に立てるようになりたい。
そして、あの人と肩を並べられるようになりたい……!
それに倒さなければならない敵もいる……。
私はもっと強くなりたい……!」
「フラウ……あなた、まさか……?」
アイゼルンデは何かを言いかけて、寸前でやめた。
自身の考えを、杞憂だと思いたかったからなのかもしれない。
「………………」
それからアイゼルンデは、寂しげな視線でフラウヒルデを見つめながら、一言も発しようとはしなかった。
そんな彼女達の脇ではザンが、
「ルーフ、こいつらをなんとかしてくれっ!」
まだもみくちゃにされており、悲鳴を上げている。
「そんなこと僕に言われたって…………。
あ、あのぅ……皆さん?」
取りあえずルーフは、ザンに殺到する騎士団の面々を落ち着かせる為に、おずおずと呼びかけた。
しかし、ザンに意識を集中させている彼女らの耳に、その声は届いていないようだ。
それでもルーフは辛抱強く、何度も何度も彼女らに呼びかける。
しかし一向に彼女達は、彼の呼びかけに聞く耳を持とうとしない。
だから──、
「皆さん、落ち着いて下さいってば!!」
あまりにも無視されたルーフは業を煮やし、つい大声を張り上げてしまった。
そんな彼へと、女達の視線が集中する。
「あ…………」
ルーフはギクリとした。
女達はようやくルーフの存在に視線を向け、そして今更ながらに気が付いたようだ。
「あら、この子可愛いじゃない?」と――。
次に狙われるのは自分だ――そんな身の危険を感じたルーフは、慌てて身を翻し、
「ザ、ザンさん、ゴメンなさいっ!」
「あ――――っ、待てっ、ルーフぅ!」
猛ダッシュで、逃走したことは言うまでもない。
余談ではあるが、逃走に成功したものの、城の深部に迷い込んで帰り道が分からなくなってしまったルーフが、ひもじさと心細さで独り廊下の真ん中に蹲り、えぐえぐと泣きじゃくっていたところを、ザンとフラウヒルデに発見されたのは、実に8時間も後のことである。
何事も無ければ、あと2週間ほどは休みは無いかと……。




