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―力量の差―

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「フ、フラウ? 

 なによ、さっきは止めたクセに……! 

 ()えあるリザン様のお相手を、横取りする気なの?」

 

 しかしアイゼルンデの抗議の言葉を、フラウヒルデは弁明するでもなく、

 

「従姉殿と私の力の差が、どれほどあるのか見てみたい……!」

 

 率直に自らの想いを認めた。

 そんな彼女の真剣な眼差しに、アイゼルンデは思わず気圧(けお)される。

 それに掴まれた肩が痛い。

 

「い、痛たたっ!? 

 あなた、どれだけ握力があるのか、自覚なさいよっ!」

 

「ああっ、済まん……。

 つい力が入ってしまった……」

 

 フラウヒルデは慌てて手を離した。

 彼女の握力は平均的な一般男性の、数倍以上の数値があるので、下手をすると女性のか細い骨なら砕きかねないのだ。

 

「もう……。

 まあいいわ、お好きになさい……。

 1度言い出したら、何を言っても聞かないものね、あなたは……」

 

「済まん、アイゼ。

 それでは従姉殿、よろしくお願いします」

 

「う……うん」

 

 それからアイゼルンデに木刀を手渡されたザンとフラウヒルデは、訓練場の中央で対峙した。

 その周囲では騎士団の面々がさわさわと、

 

「フラウお姉様が勝つわよね? 

 お姉様が負けたところなんて、私見たことが無いし……」

 

「しかし、相手は剣聖ベルヒルデ様のお嬢様だという話……。

 並の使い手であるはずがないわ……。

 少なくともシグルーン様クラスの、実力があると考えた方が……」

 

 などと口々に囁き合い、不安と好奇心の入り交じった視線を2人に注いでいた。

 

「それでは従姉どの。

 手加減無しでお願いします」

 

「手加減しないと死ぬよ?」

 

 ザンはさらりと、怖いことを言う。

 フラウヒルデもその言葉に、少しだけ(ひる)んだようだ。

 おそらく彼女の言葉に、誇張は無いと感じたのだろう。

 

「で、では……死なない程度にお願いします」

 

「でも、本当にいいの? 

 怪我するよ?」

 

「構いません」

 

「そう……」

 

 フラウヒルデの覚悟に応えるかのように、ザンは一切の迷いを振り切って表情を引き締める。

 しかしフラウヒルデが木刀を鞘から引き抜くような構えをとっているにも関わらず、ザンは木刀をだらりと床へ向けて垂らしたままだ。

 つまり、全くの無防備である。

 だが、それが不気味と言えば不気味で、かえって迂闊に攻め込めないような怖さがある。

 

(な……なにかしら? 

 さっきから手加減しないと死ぬとか、怪我するとか……。

 いくらベルヒルデ様のお嬢様でも、あのフラウを相手に手加減する余裕なんてないと思うのだけど……。

 

 それより問題はフラウよ!

 なんで飛燕凄轟斬華(ひえんせいごうざんか)の構えをとっているの!? 

 リザン様を殺す気なの!?)

 

 アイゼルンデは予想だにしなかったことの成り行きに、表面上は平静を装っていたが、内面ではオロオロと狼狽していた。

 純粋な好奇心から「余興になるだろう」と、軽い気持ちで提案したことが、なにやらとんでもない事態を引き起こしてしまったような気がする。

 

(これじゃあ、まるで実戦じゃないっ!)


 ――「まるで」ではなく、ザンはともかくとして、フラウヒルデは完全にそのつもりのようだ。

 その表情は険しい。

 

「アイゼ、はやく『はじめ』の声をかけろ!」

 

「あっ、ハイ!」

 

 流れで審判役にされてしまったアイゼルンデは、慌てて右手を上げた。

 そして彼女は、何かを確認するかのように、ザンとフラウヒルデの顔を交互に見比べる。

 正直、この試合を止めたいと彼女は思ったが、2人の真剣な表情を見ると、止めることができなかった。

 

 それから数瞬の間を置いた後、アイゼルンデは意を決したように、高く上げた右手を勢いよく振り降ろした。

 

「はじめっ!」

 

 ダンッ、という床を激しく叩くような音――。

 

「!?」

 

 次の瞬間、訓練場内は空気が凝り固まったかのような、静寂に包まれた。

 ほんの少数の例外を除いて、誰もが驚愕の色に顔を染めている。

 

「…………!!」

 

 フラウヒルデは「何が起こったのか分からない」といった表情で天井を見上げ、仰向けに倒れていた。

 その前では木刀を降り降ろした姿勢から、ゆっくりと直立の体勢に直るザンの姿がある。

 彼女は先程のフラウヒルデと対峙していた位置から、5mほど前進していた。

 勝負はアイゼルンデの右手が降り降ろされたその瞬間に、決していたのだ。


 神(わざ)と称しても過言ではないだろう──ザンの超高速の踏み込みと、斬撃。

 振り上げた木刀によって、前傾姿勢になっていたフラウヒルデの上半身を跳ね上げ、そして今度は振り下ろす木刀で、フラウヒルデを床に叩きつける。

 

 おそらく何者の目にも、捉えることはできなかったはずだ。

 それはその斬撃を受けた、フラウヒルデ本人さえも。

 ただ――、

 

「うん、もう殆ど完全調子ですね」

 

 と、ルーフだけが安心したように(うなづ)いていた。

 無論、彼にもザンの動きが見えていた訳ではないが、それこそが彼女の復調の証しだと彼は思ったようだ。

 常人には視認できないほどの神速──それこそが彼女の真骨頂であった。

 明日も更新は休みします。これが終われば少し落ち着くはず……。

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