―意外と多い血族―
広い道場の中では20人ほどの女性達が――中には小さな幼児も混じっており、いまいち性別が判別できない者もいるが――木刀を手に、剣の模擬戦に打ち込んでいた。
誰もが真剣な眼差しで剣を振るい、威勢の良いかけ声と木刀同士がぶつかり合う音が、小気味よく道場内に響き渡っている。
「ここが騎士団の訓練場です」
フラウヒルデは、まずこの場所をザン達に案内した。
「……騎士団とは言っても、ここにいる人数でほぼ全員ですがね。
何か事件があっても、城下町を守るだけならば母上独りだけで事足りてしまうので、広い領土と多くの国民を守らなければならなかった王国時代ほど、騎士は必要ないのですよ。
まあ、他にも警備兵なども100名ほどいますが、自営業との兼業の人が多いですね。
しかもこの騎士達の半数以上が、我がアースガル一族の者です。
昔からの習わしで、一族の女性は戦乙女騎士団に一度は籍を置ことになっているのです」
「へ~、あの中の半分が私の親戚なんだ」
ザンはフラウヒルデの説明を聞きながら、熱心に訓練の様子を眺めていた。
ここ200年間「自分は天涯孤独だ」と思い込んでいた彼女には、あの女性達の半数が血縁なのかと思うと、不思議な気持ちだった。
また、幼い頃から独りで山奥に籠もり、野性の猛獣などを相手にしながら我流で剣の扱いを身に付けたザンにとっては、このような道場において集団で行う訓練は目新しく、興味深いものでもあるようだ。
「あ、誰かこっちにきますよ?」
暫くすると見学者の存在に気がついたのか、騎士の1人がツカツカと足早に歩み寄ってきた。
歳の頃はフラウヒルデと同様の18歳くらいで、身長は170cm近くあり、細くしなやかな体つきをしていた。
何処となくフラウヒルデやシグルーンと、同種の雰囲気を醸し出している。
おそらく彼女もアースガルの血を受け継いでいるのだろうが、そのクセの無い燃えるような赤毛の髪は、アースガル以外の血も色濃く受け継いでいることを如実に物語っていた。
「フラウ!
あなたが訓練に顔を出すなんて、何日ぶりかしら?
ようやく騎士団へ復帰する気になりましたの?」
彼女は多少非難する調子で、フラウヒルデへと声をかけた。
そんな彼女に対してフラウヒルデは、歯切れ悪そうに応ずる。
「いや……、今日はこの方々を案内していただけで……。
済まないが、騎士団に復帰するつもりは、まだ無い…………」
「そんな……団長がいつまでも不在なんて、許されると……あ」
思わず大きな声を上げかけた赤毛の少女は、客人の前であることを思い当たり、慌てて口を噤んだ。
「失礼致しました……。
私 、当騎士団の副団長を務めております、アイゼルンデと申します。
フラウ……この御方はまさか……?」
「ああ、話には聞いていると思うが、この御方こそあのベルヒルデ様のお嬢様であらせられる従姉……いや、リザン殿と、旅仲間のルーフ殿だ」
「どうも、暫くの間、この城に厄介になっています」
「こんにちは、ルーフです」
改めて紹介されたザンとルーフは、多少緊張しつつお辞儀した。
しかしアイゼルンデからの反応が戻ってこないことを不審に思い、彼女の方を見遣ると――、
「はわあぁぁぁぁ……」
当のアイゼルンデは、両の拳を胸の辺りで握り、身体をフルフルと震わせている。
また、紅潮した顔の中では、潤んだ瞳がキラキラと輝いていた。
そして、彼女は唐突に、
「きゃ~っ!
あのベルヒルデ様の、お嬢様でいらっしゃいますか~っ!?
お会いできて光栄ですぅ~!」
いきなりテンションが急上昇したアイゼルンデの姿に、ザンは思わずたじろいだ。
「う……うちの母様って、凄い有名人なんだ……?
ここでは……?」
「それは、もうっ!
救国の大、大、大英雄様ですからっ あ、あのっ、握手お願いできますか?
サインもいいですか~ぁ!?」
「……いい加減に落ち着け……!」
「きゃううっ!?」
全くに落ち着く様子のないアイゼルンデを、フラウヒルデは容赦無く横から蹴倒した。
「全く……。
アイゼだって、その有名人の身内だってことを自覚しろよ……」
「え? それじゃあ、やっぱりこの人も、アースガル一族の人なんですか?」
(なんか分かるような気もするけど……このテンションで)
と、ルーフは思いつつも、フラウヒルデに問う。
「ええ、これが私の幼馴染みで……」
「ああ、城の地下迷宮で遭難したという、あの……」
「なっ、何で知っているの~っ!?」
蹴倒されたダメージからまだ立ち直っていなかったアイゼルンデは、ザン達の会話を聞いてカバリと跳ね起きた。
「ああ……やっぱり……」
そうなのか──と、ザンとルーフは納得した。
明日は用事があるので、お休みする予定です。




