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―地下迷宮伝説―

 地下迷宮という言葉を聞いて、興味津々というよりは警戒感を露わにした表情になったザン達に対して、フラウヒルデは語る。

 

「ええ、有事の際の緊急脱出の手段として造られたものらしいのですが、追っ手を防ぐ為に地下10層にも及ぶ入り組んだ構造になっていますし、罠もありますので……。

 正しい脱出径路を知らずに踏みこめば、二度と抜け出せなくなることになりかねませんな。

 実際、私の生まれる前の話ですが、城に侵入したコソドロの白骨死体が発見されたという事件もあったらしいですよ」

 

「………………」

 

 神妙な面持ちで語るフラウヒルデの話を聞きながら、ザンとルーフは頬を引き(ひきつ)らせた。

 

(あ、案内役を、頼んでおいて良かった……)


「…………それに、(ドラゴン)が出たって……?」

 

 ザンの質問に、フラウヒルデはこれまた神妙な表情で答える。

 

「いえ、何のことはない、生死の境を彷徨(さまよ)ったことによる、幻覚の(たぐい)だとは思うのですが……。

 それに幼児の言うことですし……。

 ただ、これは昔から言われていることなのですが……、なんでもかつてこの国を襲った竜を母上が捕らえて、迷宮内で愛玩用に放し飼いしているとかいう噂がありまして……」

 

「…………なんか、あまり深く追求したくないな、その話題」

 

 あまりにも非常識な話に、ザンは呆れた。

 シグルーンにとっては、竜も犬猫と大差ないのだろうか……と。

 

「ですから、私もあえて母上に確認していないのです……」

 

 フラウヒルデは大きく嘆息する。

 彼女もそんな危険な存在が、この城の地下に()んでいるとは思いたくはないらしい。

 世の中には、知らない方がいいこともある。

 

「それではこれから、何処へいきましょうか? 

 城の中心部は、母上と遭遇する危険性が高いので、お勧めできませんが……」

 

「んじゃ、そこは避けよう」

 

「僕も賛成です」

 

 ザンとルーフは即答した。

 2人のシグルーンに対する見解は、一致している。


「悪い人じゃないんだけど、一緒にいると疲れる」


 ……と。

 

「済みません……。

 母上が色々と迷惑をかけているでしょう? 

 少しは落ち着いて下さい──と、言っているのですがね……。

 余程従姉殿が帰ってきたことが嬉しいらしくて、ここのところはしゃぎっぱなしですよ」

 

 フラウヒルデは心底疲れたように、再び嘆息する。

 そんな彼女へ、ザンは慌ててフォローを入れた。

 

「た、確かに騒がしい人だけど……。

 叔母様だって、悪気がある訳じゃないし……。

 それに、うちの母様だってあんな感じだったから、今更気にしないってば」

 

「ベ……ベルヒルデ様が、あの伝説の英雄が……あんな感じ……?」

 

 信じられない、と言ったような面持(おもも)ちのフラウヒルデ。

 

「うん、私の母様も奇抜な人だったよ……。

 一晩中、私の寝顔を見つめ続けるとか、変なこともよくしてたし……。

 今、冷静になって思い起こしてみると……かなりの変人かも」

 

 ザンは冗談めかして言ったつもりだったのだが、フラウヒルデは酷く驚いた顔をした。

 どうやら救国の英雄として語り継がれているベルヒルデを尊敬しているらしい彼女には、そのイメージする理想と実態のギャップが激し過ぎたのだろうか。

 

「あ、今の冗談、ジョーダンだよっ!?」

 

 夢を壊してはいけない──と、慌てて取り繕おうとしたザンだったが、フラウヒルデは、

 

「そ……それ、私も母上にされたことがあります……」

 

 同じ身の上の人間の思わぬ出現に、喜びと驚きが入り交じった表情で、自らの経験を語る。

 

「へ……?」

 

 ザンとフラウヒルデは顔を見合わせ、そして暫く沈黙した後に大きく嘆息しながら肩を落とした。

 

「……お互い、母親で苦労していたんだね……」

 

「……そう、ですね……」

 

 そして、2人はうんうんと(うなず)きながら、

 

「いや~、夜中に目覚めて、暗闇の中でこっちを、『ぢーっ』と見つめている母様の姿を見つけた時の、あの驚きといったらもう……」

 

「分かります、分かりますよ、従姉殿!」

 

 と、しみじみと共感し合っている。

 

「あと、母様がお風呂で――」

 

 それから暫くの間、ザンとフラウヒルデによる母親がらみの苦労話は、止まることがなかった。

 お互い母のことは好きだし、尊敬もしているが、その反面、常軌を逸した可愛がられ方をされた所為(せい)で、被った苦労の量も並大抵ではなかったのだ。

 

(なんだかなぁ……)

 

 語り合う2人のノリには全くついていけず、ルーフは呆れた。

 まあ、それも当然だが。

 今にして思うと、彼の母親もかなり突拍子もないドジを繰り返す人だったが、それでも可愛がられ方は普通だったように思う。

 

(元精霊のお母さんと比べても、更に変なザンさん達のお母さんって……)

 

 ルーフは思わず、首を傾げるのだった。

 「母様がお風呂で――」の後に続くのは、「鼻血を流して湯船を赤く染めていた」ですね。

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