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―アースガル城見学会―

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 2月も下旬に差し掛かったある日、ザンはさすがに部屋でゴロゴロしていることに飽きたのか、ルーフを連れ立って、アースガル城内の見学に出かけることにした。

 かつては一国の(かなめ)となる王城だったことを考えれば、下手な旧跡・名所よりも見るべきところがあるに違いない――と、2人は観光気分だった。

 

 城内を歩むザンの出で立ちは、いつもの戦闘服ではなく、シグルーンが用意したワンピースである。

 慣れない服を着ているので、彼女の動きと雰囲気はかなりぎこちないものであったが、そのお陰でかえって初々しい可愛らしさが強調されていた。

 

「よく似合っていて、可愛いですよ」

 

 と、ルーフは思わず口走ってしまい、顔を真っ赤にして照れたザンに(グー)で後頭部を殴られる。

 

「と、年下に可愛いなんて言われたくないぞ。

 それに、この服だって叔母様が用意したから、仕方なく着ているんだ。

 私の趣味じゃないからな、これは!」

 

 そう言いつつも、ザンもさほど悪い気はしていないようだ。

 

「まあ、ともかく……。

 まずはフラウヒルデの部屋に、行ってみるか……」

 

 ザン達はフラウヒルデに案内役を頼もうと、彼女の部屋へと訪れる。

 ちょっとした町ほどの敷地を持つこの城内を無計画に歩き回ると、迷子になってしまう危険性が高い。

 ザンが方向オンチなのはチャンダラ市で実証済みだったし、ルーフも方向オンチと言うほどでもないが、それでも道に迷わないように散策するには、この城は広すぎた。


 ザンがフラウヒルデの部屋の扉をノックすると、すぐに反応があった。

 

「あ、従姉(いとこ)殿。

 それにルーフ殿も。

 どのような御用向きで?」

 

 ザンは顔を出したフラウヒルデへと、用件を告げている。

 その間に扉の隙間から部屋の中の様子を覗いたルーフが、(いぶか)しげな表情をしていた。

 

(な、なんだあの部屋は……!?)

 

 扉1枚を(へだ)てたそこには、東方文化圏が出現していた。

 室内には東方の刀や鎧、その他にも掛け軸やら屏風(びょうぶ)やらがいくつも陳列されていた。

 しかも床は畳敷きな上に、囲炉裏まで設置されており、その火の脇では竹串に刺された何やら白い物体()(あぶ)られて膨らんでいる。

 

 どうやらフラウヒルデは、東方の文化が好きらしい。

 徹底した部屋の様子を見るに、かなり熱狂的なレベルで──だ。

 

(やっぱり、シグルーンさんの娘なんだなぁ……)

 

 と、ルーフは思わず納得した。

 アースガルの一族は皆、何処か個性的というか偏執的というか……。

 

「城の案内を? 

 構いませんよ。

 他でもない、従姉殿の頼みですから」

 

 ザンの頼みをフラウヒルデは、嫌な顔1つせずに応じてくれた。

 

「ありがとう。

 ところで……その『従姉殿』って、やめてくれない? 

 そろそろ呼び捨てでもいいよ?」

 

「いえ、しかし、やはり目上の者を呼び捨てにするのは、ちょっと……」

 

 フラウヒルデは恐縮した。

 パッと見ではザンとフラウヒルデの間に、年齢差は殆ど無いように見える。

 それどころかフラウヒルデの方が、ザンよりも身長が6cm高く――ちなみにルーフとは20cmもの身長差がある――その所為で彼女の方が歳上に見えるくらいだ。

 しかし、実際にはザンの方が190歳近く年長さんなのである。

 

「私がいいって言っているのに……」

 

「でも、従姉殿が良くても、私が気持ち悪いもので……。

 いえ、我が儘を申して済みません」

 

 フラウヒルデは深々と頭を下げた。

 彼女がザンと初対面した時の「間抜け面」発言はどこへやら――まあ、その時のザンは半ば脳を停止させており、実際に間抜け面と化していたので率直な感想として声に出てしまったのも無理からぬことではあるが――今の彼女には、ザンに対する尊敬の念が見え隠れしている。

 ザンが歩んできたこれまでの苛酷な人生と、それに屈すること無く生き延びてきたその強さに、感銘と憧れの念を抱いているらしい。

 

(まあ、こういうのも悪くはないかな……)

 

 と、ザンは思うのだが、一方では他人行儀が過ぎるのも、ちょっと寂しい気がするのだ。

 彼女にとっては初めて出会った従妹なので、できればもっと仲良くしたい。

 

「僕も『ルーフ殿』はやめてほしいって、言ってるんですけど……。

 やっぱり変わりませんものね。

 年下の僕にさえこれですから……直らないんじゃないですか?」

 

「面目無い……」

 

 ルーフの言葉に、フラウヒルデは照れ隠しなのか、ポリポリと自らのうなじを掻いた。

 

「……それじゃあ、せめて『リザン殿』にしてね?」

 

「はい、分かりました従姉殿!」

 

「また……」

 

 どうやらフラウヒルデの「従姉殿」は、当分直りそうもないようだ。

 

「それにしても……本当に大きな城ですね。

 フラウヒルデさんも、昔は迷ったりしたんじゃないですか?」

 

 広い廊下を歩みつつ投げかけるルーフの言葉に、フラウヒルデは得意気に答える。

 

「はい、全ての部屋を見てまわろうとすると、丸3日以上はかかりますからね。

 この城の規模は大陸で1~2を争うものであるという、自負があります。

 私も子供の頃は、よく迷子になったものですよ。

 幸いにも、私の時は大事(だいじ)には至りませんでしたがね……」

 

「……って、他の人間は、至ったことがあるみたいじゃない……? 

 大事に……」

 

「ええ……私の幼馴染みが、隠れん坊の最中に行方不明となり、その5日後、飢餓と脱水症状によって衰弱した状態で、地下迷宮(ダンジョン)から発見されたということがありました。

 更に飢えの所為か『(ドラゴン)が出た」とか、錯乱したことも()かしておりましたし……」

 

「……地下迷宮?」

 

 胡乱(うろん)げな様子で、ザンは聞き返した。

 ちなみに身長は、ザン・171cm、ルーフ・157cm、フラウヒルデ・177cm、シグルーン・167cmです。

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