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―あんたは用済み― 

(ただの自殺志願者と思いきや……これはひょっとすると……。

 いや、そんなことは有りえんはずじゃ……)

 

 謎の多いザンに対して、カードがそのような思考を巡らせている隙に、彼女は次の行動に移っていた。

 

「せぇ~のぉ……」

 

「……む?」

 

 ガシャンと、ザンはさほど力を込めた様子もなく、あっさりと鋼鉄製の手枷を引き千切ってしまった。

 しかもどんな屈強の男でもまず不可能なことをしておきながら、その顔は涼しげなものだ。

 全く本気を出していない──ということなのだろう。

 

「なっ!?」


 あまりのことにカードは、大きく目を見開いて絶句した。

 その隙に棒状の物を構えるかのような姿勢を取りつつ、ザンは叫ぶ。

 

()でよ!」

 

 その気合いを伴った声と共に、ザンの掌から閃光が(ほとばし)る。

 その光は徐々に細長い形へと集束していき、やがて1mほどの刀身を持つ剣へと姿を変えた。

 それは奇妙な剣だった。

 

 パーツは大まかに分けて2つ。

 剣身(けんのみ)(つか)はあるが、しかし(つば)は無い。

 だからそれを「剣」と呼ぶには、若干の違和感があった。

 もう少し柄が長ければ、槍と呼んだ方がしっくりいったかもしれない。

 

 だが、そんな形状以上に目を引くのは、色である。

 まるで血を吸い込んだかの如く、剣身の全面が紅い。

 その剣のイメージとはかけ離れた色の所為で、それが刃物であるという印象さえも希薄だった。

 実際、その厚みのある刃は、どう見ても「斬る」ことよりも、「叩き潰す」ことに特化しているように見える。

 

 そしてその刀身の鍔元――この剣に鍔は無いが――付近には、拳ほどのサイズをしている楕円型の球体がはめ込まれていた。

 球体とは言っても昆虫の腹のように節があり、その材質もどことなく甲殻類の殻のような、生物的な印象がある。

 

 その球体の乳白色の外殻の内には、柄の方から剣の切っ先に向けて、淡い光が明滅を繰り返しながら流れているのが透けて見える。

 まるでその球体がポンプの如くザンからなんらかの力を吸い上げて、それを刀身に注ぎ込んでいるかのようだ。

 

 このような奇妙な剣が唐突に出現すれば、誰でも驚くだろう。

 勿論カードも例外ではない。

 

「き、貴様っ!?」

 

「竜を呼んでくれて、ありがとう……」

 

 狼狽するカードとは対照的に、ザンは薄笑いを浮かべつつ静かに謝礼を述べた。

 だが、彼女の持つ剣の切きっ先は、カードへと向けられている。

 

「でも、もうお別れだ。

 あんたが操られているだけならば、見逃してやろうとも思っていたけど、あんた自身もかなりの外道のようだし……。

 それに、もう人間をやめている奴に手加減するつもりはないな。

 あんたも竜の血を浴びて、超人と化したクチだろう?」

 

 カードは一瞬、図星をさされたかのような表情を顔に浮かべたが、それを切っ掛けにして急速に冷静さを取り戻していった。

 彼はようやくここに至って、目の前にいる女が只の人間などではなく、侮りがたい存在であると認識を改めたのだろう。


 ならばいつまでも動揺して、相手に付け入る隙を与えることは得策ではない。

 もっともいかに油断していたとしても、自身が目の前の女に負けることがあろうなどとは、微塵もカードは思っていなかったが。

 

「クックック……本当に博識じゃな。

 確かに竜の血を浴びて、それを体内に受け入れた人間は、竜の力の一端を手に入れられる。

 いや、本来の肉体を失った竜の血が、生きながらえる為に新たな肉体がより馴染むよう、そこを本来の肉体と同様の物へと作り変えると言った方が正しいか」

 

「……つまり血が分身を生み出して、それを支配するって訳だ。

 まず本体の前に、血の方を倒させてもらう」

 

 ザンの言葉を受けて、カードはニヤリと口元を歪めた。

 その唇の隙間からは、無数の鋭い牙が覗いている。

 

「よかろう! 

 だが、儂を只の分身だと侮るなよ。

 どこで拾ったのかは知らぬが、いかにその剣があろうとも、貴様如きが儂に勝つことなど有り得ぬ!」

 

「……この剣を知っているのか?」

 

「うむ……何度か見た記憶があるなぁ。

 確かに厄介な剣ではあるが、人間が自在に扱えるものでもあるまい。

 貴様が手にしたところで意味は無いな……」

 

 カードが勝ち誇ったように笑う。

 だが──、

 

「ああ……どんなに強力な武器も、結局は使う者の能力がモノを言うからなぁ」

 

 それが余裕からなのか、諦観からなのかは定かではないが、ザンも微笑んだ。

 

「しかし、それについては問題……無い!」

 

 次の瞬間、カードはその身体に衝撃を感じた。

 

(なっ……!?)

 

 カードは一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 ただ、ザンが剣を振り上げ、こちらへと踏み込んできたような気はした(・・・・)

 おそらくは攻撃を仕掛けてきたのだろうが、その動作を視認することができなかったのだ。

 

 有り得なかった。

 竜の能力をもってすれば、いかなる熟練の戦士のものとて、その動きを見切ることも、そしてそれを凌駕することも難しくはない。


 現にカードは、これまでに人間が放った攻撃の直撃を受けたことなど、ただの1度も無い。

 しかしザンの動きには反応することすらままならず、その攻撃を受けた。

 確かに相手を脆弱な人間だと侮って油断はしていたのだろうが、それを差し引いても有り得ないことであった。

 

 しかもカードが視線を下に向けると、祭壇の床にはおびただしい量の血液がまき散らされていた。

 彼は薄れ行く意識の中にありながらも、確かに愕然とした。

 

(こ……この儂が斬られたというの……か……?)

 

 竜の皮膚は、鋼鉄をも上回る強度を誇る。

 その竜の血に寄生された人間の肉体も、それに近しい強靱さを備えているはずであった。

 いかに強力な武器を用いたとしても、人間の貧弱な力で繰り出した攻撃では、カードに致命傷を負わせることなど不可能だろう。


 いや、かすり傷をつけることすら難しいかもしれない。

 だが、カードは斬られた。

 これもまた有り得ないことであった。

 

「生憎と、私は人間じゃないんでね。

 相手が悪かったな……」

 

 そう言い放つザンの瞳には、カードに対する一片の情けの色も無かった。

 ようやく戦闘描写を入れることができた……。バトルが主体の作品であるはずなんですがねぇ……。

 あと、ザンが出した剣についてですが、普段は異空間に収納されています。たぶんこの作品で唯一のアイテムボックス的な描写となりますが、ザン個人のスキルではなく、剣に付与されている機能です。

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