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―絶対強者―

「ザ……ザンさん……!」

 

 ルーフは目の前の光景が信じられないという面持(おもも)ちで、茫然と立ちつくしていた。

 

「ハアッ、ハアッ……!」


 苦しそうに肩で息をするザンの身体は、泥と血で汚れている。

 しかし対峙するりヴィアサンは、悠然と立っていた。

 

「クックック……その程度か、嬢ちゃん? 

 話にもならんな」

 

「だ、黙れっ!」

 

 ザンは猛スピードで駆け、リヴァイアサン目掛けて剣を振るう。

 しかし彼はそれを軽々と躱し、無造作に手を振り払っただけのようにしか見えない動作でザンを地面に叩きつけた。

 

「あぐっ!」

 

「……ざ、ザンさんが、手も足も出ないなんて……!」

 

 あまりのことに、ルーフは為す術もなく茫然としていた。

 

「フフン……そろそろ本気を出したらどうだ? 

 このままでは、ちと退屈になってきた」

 

 リヴァイアサンは(てのひら)を天に掲げ、いくつもの西瓜(スイカ)サイズの水球を生み出した。

 宙を漂う水球達は唐突にザン目掛けて、凄まじい勢いで一直線に突き進む。

 

「!!」

 

 ザンは慌てて跳び退(すさ)る。

 狙いを外した水球は、地面を(えぐ)りつつ爆散した。

 たとえ水といえども、その叩きつける勢いによっては、同質量の鉄塊以上の破壊力を生み出す。

 更に――、

 

「熱っ!?」

 

 飛び散った水球の飛沫(しぶき)が、ザンの肌を焼いた。

 水球はただの水ではなく、強酸によって構成されていたのだ。

 まともにあの水球を食らっていれば、全身が焼け(ただ)れていたことだろう。

 そんな想像を巡らせて、彼女は戦慄した。

 

(冗談じゃないっ! 

 これ以上あんなの(・・・・)を、身体に増やされて(・・・・・)たまるものかっ!)

 

 その動揺を振り払うかのように、ザンは攻勢に転ずる。

 彼女は神速の踏み込みを見せ、凄まじい勢いで無数の斬撃をリヴァイアサン目掛けて繰り出した。

 その斬撃はあまりのスピードが故に、あたかも彼女に数組の腕があるかのように見せたほどだ。

 

 更に巧みな身のこなしによって、リヴァイアサンへの正面・左右・斜め・足下・頭上・そして背後に至るまでのあらゆる角度からの攻撃を可能にし、逃げ場の無い剣の結界と化して襲いかかる。

 

 事実、ザンの放った斬撃の全ては、リヴァイアサンの身体に直撃した。

 しかし竜の強靱な肉体を容易く斬り裂く斬竜剣を受けてなお、彼は木刀で殴られた程度にも痛痒(つうよう)に感じてはいないらしい。

 凄まじく強靱な肉体だった。

 

「……それだけか?」

 

「……っ!! 

 う……あああっ!!」

 

 ザンは焦りと脅えの入り混じった、悲鳴に近い気合いの声を上げながら、斬撃を繰り出す。

 それは半ば自暴自棄の一撃だった。

 それでもその剣筋は、的確にリヴァイアサンの喉元を狙う必殺の鋭さを持ち、彼女の渾身の力が込められている。

 やはり彼女は、一流の剣士だった。

 

 だがしかし――、

 ザンの繰り出した斬撃を、リヴァイアサンは安々と左の掌で受け止める。

 とは言え、刃はその手首の辺りまで潜り込んでいた。

 それでも彼は、全くと言って良いほどに痛みを感じてはいないらしい。

 

「今のは……まあまあの一撃だったぞ。

 かすり傷(・・・・)程度ではあるが、このように身体を傷つけられたのは200年ぶりくらいか」

 

 リヴァイアサンは牙を剥いて(わら)う。

 ルーフがリチャードに襲われていた時に見せていた物と同様の、小動物をいたぶるようなあの嗤い――。

 そう、彼にとってはザンも、小動物と大差ないのだ。

 

「さあっ! 

 褒美をくれてやろう!」

 

 リヴァイアサンの右の(こぶし)が唸りを上げて、ザンに襲いかかった。

 剣が彼の左手に食い込んでいた所為で、とっさの回避行動が取れない彼女は、かつて経験したことも無いほど重い拳の一撃を腹に受けた。


 結果、ザンは20m近くも吹っ飛び、岩壁に激突する。

 その衝撃で岩壁は崩れ落ち、彼女の上に降り注いだ。

 その1つ1つが、人の身体よりも大きい。

 

「ザンさんっ!」

 

 ルーフの絶叫じみた呼びかけにザンの応えは無く、崩れた岩の間から彼女は、なかなか這い出してこなかった。

 気絶、あるいは最悪の場合、その命を散らしてしまったのだろうか。

 

「ククククク……。

 もう終わりか? 

 斬竜剣士としてはなかなか手強い部類であったが……。

 あのシグルーンとの関係から察するに、人との混血か……。

 やはり脆弱な人間と、大差無いわ」

 

 そんなリヴァイアサンの嘲笑を聞きながら、ルーフはへたり込みそうになった。

 あまりのことに、岩に埋もれたザンを救うことも、この場から逃げ出すことも忘れてしまう。

 しかし、その時――、

 

「――放て」

 

「ぬ……?」

 

 何かの声のような物を聞き、リヴァイアサンはザンの突っ込んだ岩壁の方を見遣る。

 

「我、呼びかけし汝の名は――」

 

「この声は……」

 

 突然、ザンは岩をはね除けながら立ち上がった。

 それと同時に、リヴァイアサンの攻撃を受けてもなお手放さなかった剣の切っ先を、正面に突き出して叫ぶ。

 

斬竜剣(ドラゴンスレイヤー)――っ!!」

 

 ギュオオオオオオオォォォォォーッ!!!!

 

「!!」


 ザンの叫びを合図に、剣先からは膨大な量の魔力が撃ち出され、至近距離からリヴァイアサンを飲み込んだ。

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