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―未熟な騎士―

 リチャードはフラウヒルデの顔面目掛けて、手刀を突き入れた。

 それを彼女は、姿勢を低く(かが)めることによってやり過ごす――と同時に、リチャードの足目掛けて剣を横薙ぎに払う。

 

 手刀を突き入れる為に前のめりの姿勢になっていたリチャードにとって、その斬撃を躱すことは難しいはずだった。

 普通ならばその足は、両断されていただろう。

 しかし彼は身体を捻って回転し、足の位置を上下に入れ替える。

 傍目に見れば足を払われて、その勢いで回転しているようにも見えるが、フラウヒルデの剣はかすりもしていない。

 

 (ちゅう)に浮かぶリチャードの身体は、姿勢を低くして踏み込んだフラウヒルデの頭上を半ば飛び越える形となった。

 彼は重力に逆らわず、彼女の背に肘を落とそうとするが、彼女は身体を地に転がすことによって、間一髪で逃れる。

 しかも彼女は回転しつつもリチャード目掛けて剣を振るい、その斬撃は今度こそ彼の背を浅く斬り裂いた。

 

「クッ!」

 

 両者は素早く起き上がって対峙し、お互いを牽制しつつ間合いを計る。

 そして、暫しの膠着――。

 

「手刀と剣……そのリーチの差もあるのだろうけど、まずはあの子(フラウヒルデ)の方が優勢か……。

 戦闘技術では、フラウの方がやや上なのかもしれないわね……。

 だけど、これは人対人の戦いではない……」

 

 戦いを静観していたシグルーンは、小さく呟いた。

 

(あの男……まだ人間離れした能力を隠している。

 それ以前に……)

 

 シグルーンはその戦いから、一時も目を離そうとはしなかった。

 そんな彼女の前で、リチャードは再び攻撃を仕掛ける。

 彼は右腕の手刀をフラウヒルデの顔面目掛けて突き入れる──が、彼女は軽く首を横に傾け、その攻撃を難なく躱した。

 しかし続いて左腕の手刀が、彼女の顔面を狙っている。

 

「こんなの、いくら撃って来ても当たらないっ!」

 

 その言葉通り、フラウヒルデは2発目の手刀も軽々と躱した――が、その手刀と同時に放たれた、リチャードの右膝蹴りは、彼女の脇腹を完全に捉えていた。

 ゴキッ、と鈍い音が響く。

 肋骨には致命的な一撃――。

 

「ガッ……!」

 

 思いもよらぬ攻撃を受け、フラウヒルデは地に転がった。

 

(やはり戦闘経験の差が歴然としている……。

 実戦経験豊富な戦士にとって、あの子の動きは隙だらけだわ……)

 

 シグルーンはまだ動かない。

 

「まだまだ、甘いわぁ!」

 

 至近距離からリチャードの「烈風刃(れっぷうじん)」が、フラウヒルデを襲う。

 彼女は慌てて跳び退(さす)るが、地面に炸裂して四散する衝撃波の余波で、身体にいくつもの裂傷が刻まれた。

 それでも彼女からは、闘志はまだ失われてはいない。

 ただ、予想を上回るリチャードの実力には、驚きは隠せないようだ。

 

「まさか……母上の他にも、これほどの実力者が存在していようとはな……」

 

「何を今更……。

 リザンちゃんだってかなり強いわよ。

 あの子の強さも分からなかったの?」

 

 そんなシグルーンの突っ込みも、フラウヒルデには聞こえない。

 リチャードに受けたダメージも気にならない。

 それだけこの戦いに集中していた。

 

「女と比べられるのは気に食わんが、まあ褒め言葉ととっておこう。

 だからと言っても、絶対の死を半殺しにサービスしてやるつもりはないがな」

 

 リチャードはニイィと笑う。

 

「黙れっ! 

 その減らず口も、すぐに()けぬようにしてくれる!」

 

「む……?」

 

 リチャードは怪訝(けげん)そうに眉宇(びう)をひそめた。

 フラウヒルデが、剣を鞘に収めたからだ。

 次の瞬間、彼女は剣を鞘走らせた。

 彼女の剣は、刀と呼ばれる物に近い形状をしており、その刃を緩やかに湾曲した鞘の中で滑らせることによって加速させる。


 それは音速をも超え、衝撃波を発生させた。

 抜刀から「烈風刃」に繋げる――その意表を突く攻撃もさることながら、通常よりも加速して撃ち出された「烈風刃」は、更に高い威力を伴っていた。

 

「はっ! 

 俺と同じ技で張り合おうとでもいうのか?」

 

 リチャードは拍子抜けしたように(わら)う。

 この程度の技なら、今の彼には余裕で無効化できるし、事実彼は腕から打ち出した「烈風刃」で相殺してみせた。

 しかしフラウヒルデは――、

 

「同じ技では……ないっ!」


 再び鞘に納めた剣を抜刀し、「烈風刃」を放つ。

 同時に、今までとは比べ物にならないスピードで駆け出し、自らが撃ち放った衝撃波を追った。

 そしてついに衝撃波に追いついた彼女は、その衝撃波目掛けて剣を振う。

 その斬撃は衝撃波を取り込み、更に彼女自身の渾身の力を加えてリチャードの腹に叩き込まれた。

 

「がっ……!!」


 烈風刃と剣の斬撃を同時に叩き込む大技「疾風刃(しっぷうじん」の直撃を受けて、リチャードは土砂を巻き上げながら凄まじい勢いで地に転がった。

 それは数十mにも及び、常人ならばその身体の原形を保つことすら難しいだろう。

 

「よし!」

 

 フラウヒルデは会心の声をあげる。

 しかし、シグルーンは、

 

「未熟者……」

 

 と、呆れたような声。

 

「……『疾風刃』なんて小技(・・)を使わないで、『飛燕凄轟斬華(ひえんせいごうざんか)」か『烈破極撃斬(れっぱきょくげきざん)」などの、奥義中の奥義を使っていれば良かったのよ。

 そうすれば、まだあなたにも勝ち目があったのに……」

 

「? 母上、それはどういう──」

 

 その時、勝利を確信して集中力を乱していたフラウヒルデの腹に、何かが突き刺さる。

 地面より伸びる細長い5本の物体が──。

 

「な……っ!?」

 

「敵が全力を出す前に、一気に決着をつけておけ、ということよ……」

 「疾風刃」は『ロスト・ウィザード』の方にも出てきますが、実はこちらが初出です。


 なお、明日は用事があるので、更新はお休みします。

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