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―元女王の出陣―

 ちょっと短めです。

「さ~て、久しぶりに一暴れしましょうかね」

 

 何処となく嬉しそうにそうなシグルーンの様子に、ザンは戸惑いの表情を浮かべる。

 

「あ……あの、出陣って?」

 

 まさか本気で竜と戦うつもりなのだろうか?──と、ザンは(いぶか)しむ。

 いくらシグルーンが不死竜と斬竜王の血を体内に宿していたとしても、上位竜との交戦はいくらなんでも無謀だ──と、彼女は考えた。

 

 しかし、シグルーンはあっさりとした口調で、

 

「大丈夫よ。

 一体誰がこのアースガルを、200年も守ってきたと思っているの? 

 襲撃してきた竜()を叩き潰したことだって、1度や2度ではないわよ」

 

 と、誇らしげに胸を張る。

 

「は、はあ……」

 

 ザンは複雑な表情で、溜め息の如き返事を吐く。

 200年前の「邪竜大戦」によって、当時世界中に存在していた国の殆どが滅びた。

 それににも関わらず、このアースガルだけが未だに存在し続けている理由の一端が、今彼女の目の前にある。 

 そしてシグルーンが、アースガルを襲った竜を幾度となく撃退したというのが事実だとすれば、彼女は恐ろしく強い。

 

 剣士として人間の範疇を超えた強さを持ち、100人以上の敵の集団を単独で壊滅させることも可能だった姉ベルヒルデでさえ、竜には勝ったことは無いのだ。

 その竜に勝てるのならば、単純に考えてもシグルーンは、ベルヒルデよりもはるかに強いということになる。

 まさに誇張ではなく「一騎当千」の(つわもの)であると言えた。

 

 しかもこのアースガルを襲った竜は、1度に複数匹だったということも考えられる。

 たとえ相手が中位の竜族程度であったとしても、たった独りで複数の竜を相手にすることは、並の斬竜剣士ですら容易ならざる所業である。

 ましてや、上位竜を相手にそれを成し遂げたのだとすれば、最早常軌を逸しているとしか言いようがない。

 それにも関わらず、シグルーンは単独でそれを成し遂げてしまった可能性があるのだ。

 

(もしかして……叔母様って無茶苦茶強いんじゃあ……)

 

 ザンは竜種を上回るかもしれない強大な存在を前にして、頬をわずかに引きつらせた。

 だがしかし、今度の相手は邪竜四天王の一角に名を連ねる強大な竜だ。

 シグルーンがいかに強かったとしても、手に負える相手ではないだろう。

 いや、ひょっとしたらザンでさえも――。

 

「でも、今回はさすがにやめておいた方が……」

 

 ザンのおずおずとした制止の声を、シグルーンは(さえぎ)る。

 

「駄目よ! 私の可愛い姪を独りだけで戦わせるなんて、できないわ。

 それにあいつには、個人的な恨みもあるんだから……!

 フッ、フフフフフフ……!」

 

 シグルーンの言葉の前半は、ザンにとって嬉しかった。

 自身を本当に大切に想ってくれていることが、感じ取れたのだ。


 そして後半は怖かった。

 シグルーンの目は「正座しています」って言うぐらい、完全に(すわ)わっていたのだから。

 

 ザンは思わず、(のけ)()るように、半歩後退した。


(もう何を言っても無駄。

 絶対に止められない)


 と、ザンは確信する。

 何故ならば、彼女の母・ベルヒルデがこのような目をした時も、止めることは非常に困難だったのだから……。

 たとえば、娘を苛めた悪ガキどもへの報復を思い立った時などだが、こうなると父・ベーオルフが実力をもって昏倒させるか、娘が泣いて必死に懇願でもしない限り、母は止まらなかった。

 

(…………やっぱり姉妹だ……)

 

 と、ザンは実感した。

 だが、こんなところで実感したくはなかったと思う。

 

「分かりましたよ……もう止めません。

 でも、危なくなったらすぐに逃げてくださいね?」

 

 ザンの嘆息混じりの返事に、シグルーンはニッコリと笑みを浮かべた。

 思い通りにことが運ぶと、すぐに機嫌を良くする辺りは姉によく似ているし、実はザンにもそのような傾向がある。

 やはりシグルーンとザンの間には、確かな血の繋がりがあるようだ。

 

「それじゃあ、いきましょうか。

 リザンちゃん、気配のハッキリとした出所は分かる?」

 

「え……と、多分北の方。

 山の中かな?」

 

「うん、私の感じた場所と同じね。

 モルタウ(さん)だわ」

 

 シグルーンは窓の外にそびえ立つ、雄大な山並みを見遣る。

 そんな彼女の視線は、酷く険しかった。

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