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―不死竜―

「なんだ……大したことなかったな……?」

 

 そんな風にベーオルフが拍子抜けしかけた瞬間――、

 

「なっ!?」

 

 大量の水気を含んだ摩擦音ようなものを耳にしたベーオルフは、音の発生源へと目を向ける。

 そこには目を疑うような光景があった。

 首を失ったファーブニルの身体の切断面の奥からは、押し出されるように新たな首が生え、それは数十秒とかからずに、元の完全な状態へと再生を果たしたのだ。

 

「馬鹿なっ! 

 脳を破壊されても生きているだと!? 

 いや、脳が頭に無かったのか……? 

 それとも複数の脳が……?」

 

 狼狽したベーオルフの様子に、ファーブニルは、「ククク……」と含むように笑う。

 

『どれもハズレだよ』

 

「そんな訳あるかよ!?」

 

 ベーオルフは思わず声を(あら)らげる。

 ファーブニルが頭部を再生できた理由は、先程の推測で正しいはずだ――これはベーオルフのみならず、この世界の誰に聞いても同じように答えるだろう。

 実際、自らの肉体を自在に変化することのできる竜ならば、脳を頭部以外の場所へ移すことは可能だからだ。

 

 また、巨大な肉体を持つ竜は、1つの脳だけでは全身を制御できない場合もある。

 その為に頭部以外の場所に、脳の働きをサポートする運動神経などの塊──言わば副脳を持つ者も存在した。

 ファーブニルほどの竜であれば、その副脳を本来の脳と同等の機能を有するものへと変化させることも可能なはずである。

 

 この2つの推測のどちらかが正しければ、頭部を失ってもなお、ファーブニルが生命活動を続けていることの説明はつく。

 しかし、どちらの可能性も否定された。

 だが生物が肉体における最大の要所である脳を失い、その上で生命活動を維持することは、単純な肉体構造を持つ原始的な生物など、一部の例外を除けば本来は有り得ない。

 

『クククク……。

 まあ、信じられないのも無理はないと思うけどな。

 だが、俺にとって脳を失うことなんかそれほど重大なことではない。


 なにせ、俺は全ての細胞内に記憶を始め、脳の……いや、あらゆる肉体組織の構成パターンの情報を記録してあるんだ。

 たとえ脳や心臓だろうとも、無くなれば再性能力の続く限り、保存しておいた記録を元に自動復元される。

 もっとも、身体を完全に破壊されれば、さすがに再生のしようも無いだろうがな』

 

 そんなファーブニルの在り方は、サンゴなどのように無数の個体が集合し1つの生物の如き姿を形成する「群体」に近いと言えるのかもしれない。

 一個の人格によって全身が統制されているとはいえ、細胞の全てが独立した生物としての機能を有しているのならば、必要に応じて欠損した部分を余所の細胞が補うことも難しくはないだろう。

 それはつまるところ――、

 

「……チッ! 

 わざわざ自分の倒し方を教えてくれるとは、親切じゃないか……」

 

 ベーオルフは皮肉混じりに呻いた。

 彼にファーブニルの身体を完全に破壊できる能力が無ければ、残った細胞から再生を果たすファーブニルは不死も同然であり、倒すことは不可能だということになる。

 

(やれるものならやってみろって訳か……。

 これは……アレ(・・)を使わなければならないかもしれんな……)

 

 苦戦することが確定的になったにも関わらず、ベーオルフは唇の端を吊り上げた。

 そうでなくては、わざわざ戦う意味も無い、ということか。

 

「面白い……!」

 

『面白い? 面白いか! 

 この俺の再生能力を――不死身と謳われるこの肉体を目の当たりにして、そんな台詞が吐けるとはな……。

 他の連中なら敗北を悟り、とっくに逃げ出している。

 あんたの方こそ面白いよ。

 

 やはりあんたが相手なら、俺は全力を出せそうだ。

 生まれてよりこの300年、全力で戦うに値する戦士に初めて出会った!』

 

 ファーブニルは歓喜の声を上げた。

 

(300年……? 

 竜としては、まだまだ赤子も同然の年齢じゃないか。

 それでもこれだけの力を、持っているというのか……!)

 

 ファーブニルの竜としての幼さに、ベーオルフは小さく驚く。

 数千年以上――時として、数万年以上もの長い時を生きる竜にとって、300歳とはまさに赤子も同然だ。

 そして、竜の強さは年齢に比例する。

 この時点でこれだけの戦闘能力を有した竜など、他に例が無い。

 異常とも言える強さだった。

 

 もしもファーブニルが今より数千年(よわい)を重ねれば、最早この世で彼に比肩し得る者は存在しなくなるのかもしれない。

 いや、間違いなくそうなるだろう。

 

「……やっぱり、お前の方が面白いよ」

 

 ベーオルフは不安や焦り、そして畏れなどの無数の感情が入り交じった表情を顔に浮かべた。

 しかしそれ以上に、嬉しそうでもある。

 

「赤子のお前相手には、まだまだ全力を出す訳にはいかねーな。

 だが、お前は天才だよ。

 だから少しだけ俺の本気を見せてやる」

 

『少しだけかよ……』


 ファーブニルは不満げに呟く。

 

「少しだけだ。

 完全に本気を出したら、すぐに決着がついちまう。

 それではつまらんだろう?」

 

 そんなベーオルフの言葉が真実とは限らない。

 しかし彼の身体からは、圧倒的な威圧感が発せられている。

 それを感じられれば、その言葉を疑うことが馬鹿らしくなるほどに――。

 

『そうかよ……。

 それじゃあ、じっくり時間をかけて、お前の本気を引き出してやる。

 俺とて、まだまだ本気ではないのだからな!』

 

 そして1人と1匹は対峙した。

 昔は恐竜に副脳があるという説もありました。最近の学説では否定されているかもしれませんが、特撮映画に登場する一部の怪獣の中には、この副脳の設定を取り入れているものもあります。

 あとファーブニルの首の生え方は、最近某ギドラさんが、かなりイメージに近い生やし方をしてくれました。

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