―ひたすらに―
ちょっと短めです。
(奴の鎧の隙間……。
口……は危ないわね、炎を吐くし。
……となると目か……)
ベルヒルデが狙うべき敵の弱点は、硬質の皮膚に覆われておらず、なおかつ外部に露出している部位──それは口腔と眼球だけだろう。
──が、口腔は鋭い牙が並び、その上で火炎息を吐き出す為、危険過ぎて論外だ。
となれば、残る目標は眼球である。
ここに剣を深々と突き入れることができれば、その傷は竜の脳にまで達し、致命傷となるはずだった。
だが、高速で動き回る火蜥蜴の目に剣を突き立てることは、かなり至難の業だろう。
しかも刺突攻撃は、武器を持つ者の突進力を先端に集中させなければ、大きな効果は期待できない。
つまり通常の斬る攻撃よりも、突進の勢いを殺さずに敵の懐へと深く踏み込む必要があり、その上で突き刺さった武器を引き抜くという、大きな隙となる動作が必要になる。
それ故に攻撃を回避されるなどして、一撃でトドメを刺すことができなければ、高い確率で相手の反撃を許す結果となってしまう。
一撃一撃が必殺の威力がある竜の攻撃だ。
それを受ければ、そのまま死に繋がるのは必定である。
だからこそまずは、火蜥蜴を反撃することができない状態へと、どうしても追い込む必要があるのだ。
(狙うのは……頭部へと連続的に打撃を加えて、気絶させること……!)
ベルヒルデは構える。
しかしそれは、剣を振る構えとは違う。
身体の重心を前に傾けて姿勢を低くし、超高速で駆ける為の構えだ。
それをたとえるならば、獲物を狙って身を潜めるネコ科の肉食獣のようだった。
「さ~て、そろそろ本気で奥義を出していきます……かっ!」
その言葉が終わらぬ内から、ベルヒルデは疾駆する。
最早その動きは人間が可能とする領域を超えつつあり、事実、火蜥蜴さえもその動きには殆ど反応できなかった。
「ふんっ!」
そんな掛け声と共に、ベルヒルデは火蜥蜴の左側頭部を剣の腹で強く打ち据える。
そして今度は、その真裏の右側頭部に打撃を浴びせかけた。
しかもその速度は常軌を逸しており、並の人間ならば、打撃が同時に炸裂したようにしか見えなかっただろう。
通常、打撃の衝撃というものは、目標の内部で完全に炸裂することはない。
衝撃のエネルギーは打撃を加えた面から反対の面に突き抜け、逃げてしまうからだ。
それをベルヒルデは、反対側からも打撃を加えて挟みこむことによって、衝撃の殆どを内部で炸裂させて威力を倍増させている。
彼女の人間離れしたスピードと、正確に剣を操る卓越した技術があって初めて可能な技だ。
「封衝乱打」――それがベルヒルデが繰り出した奥義の名である。
彼女は更に火蜥蜴の下顎から上顎、前頭部から後頭部という具合に、打撃を2打1セットにして、繰り返し火蜥蜴の頭部に叩き込み続けた。
『グガッ、ガッ、ガアァァァァァァーッ!!』
これにはさすがの火蜥蜴も悲鳴を上げて、悶え苦しむ。
だがそれでも、まだ倒れない。
これだけ頭部へと集中的に打撃を打ち込まれて、脳が揺らされていないはずはないのだが、それを耐える辺りは、やはり最強種・竜の眷属と言ったところか。
(早く倒れろっ!
長時間は私の身体の方がもたないっ!)
内心の焦りを抑えつつ、ベルヒルデは必死で剣を振るった。
常人離れしたスピードを殺さず、最も打撃が効果的となる箇所へ剣を打ち込む為には、太刀筋を強引かつ急激に変更し、しかも直前に加えた打撃の反動を抑えつつ剣を操る必要がある。
それは想像以上に腕の筋肉組織を酷使した。
更に硬質な火蜥蜴の皮膚を殴りつけた時に腕へと生じるダメージも、馬鹿にはではないものがある。
長時間この攻撃を繰り返せば、ベルヒルデの腕は間違いなく崩壊するだろう。
しかしベルヒルデによって火蜥蜴に加えた打撃が、50発近くにのぼった頃――、
(よしっ!)
火蜥蜴は地響きに似た轟音を立てて、ついに昏倒したのだ。
明日の金曜日は更新できないと思うので、夜にもう1回更新するかもしれません。
 




