表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/71

プロローグ

 太陽神ロボアーヌと月光神ナティアの兄妹神が造ったとされる世界、アシュガルド。

 かつて、アシュガルドの各地には魔力を持つ者たちが大勢いた。 

 彼らはいつから存在したのか文献には残っておらず、また、どこで、誰に、その摩訶不思議な力が宿るのかも分からなかった。

 ただはっきりしていたのは、のちに権力を握る者たち――一般的に王族と呼ばれる――は、なぜか魔力を持たずに誕生したということだ。

 権力者たちに人智を超えた力を与えると、幸福よりも不幸が起こるとでも二人の神は考えたのだろうか。アシュガルドがどんなに長い年月を刻んでも、王族に魔力を持つ者が生まれた試しはなかった。

 はじめのうちは王族の中にも魔力保有者が生まれると信じ続けられていたものの、血縁の濃い者はおろか、本当に王族の血が入っているかと思えるほど遠縁の者にさえ、いっさいの魔力は宿らなかった。

 また妃として城に上がった女性たちの中には、魔力を持っていた者たちがいたそうだが、彼女たちの魔力は徐々に衰え、城で三年も過ごした頃には、すっかり魔力を失ったとのこと。

 やがて王族たちは考えを改め、魔力を持つ者を魔術師として重用し、国の安定を図るようになっていった。


 平穏な時代がこのまま続くと思っていたのだが、時が経つにつれ、目に見えぬ力を操る魔術師たちを恐れ、嫌悪する者たちが現れた。

 それは、私腹を肥やすことばかり考える貴族たちである。

 王族は魔術師たちを自分たち貴族よりも厚く迎え入れていたため、その反発心から魔術師たちを毛嫌いするようになっていった。

 悪いことに、王族の中には憶病な気質の者も存在し、それゆえ、貴族に捻じ曲げられた事実を吹き込まれた結果、魔術師たちを王族の敵とみなすようになってしまう。――魔術師たちが王座を奪い、この国を支配しようと企んでいる、と。

 その結果、自分たち王族を脅かす存在として、一方的に迫害された上に命を奪われた魔術師たちもいた。

 歪んだ風潮は徐々に各国へと波及し、魔術師たちは居場所を失い始める。自分たちを重用していた国の王族ですら、次第に恐怖心を芽生えさせていったのだ。


 とはいえ、魔術師たちのすべてが命を奪われたわけではない。


 戦うことで居場所を確保することがどれほど愚かしいことかを知っている彼らは、静かに姿を消していった。

 まずは、自然さえも操るような強い魔力を持つ魔術師たちが。次いで、日常魔法に長けた者たちが。

 やがて魔力を持って生まれる赤子さえも激減し、魔術師の存在はいつしか物語の中だけのものとなっていった。

 その魔術師たちはアシュガルドと表裏一体として存在している世界で暮らしていると、古い書物に記されている。

 しかし、その世界がどこにあるのかは記述がなく、またその世界が存在しているのか確かめた者もいなかった。


 魔術師を失ったアシュガルドは、その後、緩やかに発展していく。

 街中には馬車が走り、海には人力と風力を利用した船が走った。

 農作業も、炊事も、洗濯も、人々は自分たちの手で行っている。

 とはいえ、この世界から魔力が完全に消失してしまったということではない。

 ほんの微力ながらも魔力を持つ者は少数存在し、彼らは成人すると占術士や錬金術士として生計を立てていた。

 占術士や錬金術士たちは人々の幸せのために己の魔力を行使しているとなっているが、その実は、けして口外できない依頼を請け負うこともあった。

 媚薬作成程度なら、まだ可愛い。

 中には、「呪い殺してほしい相手がいる」、「証拠が残らないような毒薬を作ってくれ」などといった物騒な依頼も少なくない。

 どれほど時が過ぎようとも、ロボアーヌとティアナが慈愛を注ごうとも、妬み、恨みといった感情は人々の心に巣食うものだ。

 もちろん、人の命をどうにかするためには、それだけの魔力を必要とする。

 依頼内容の残虐性によって報酬は跳ね上がるが、痕跡を残さず憎しみの対象を始末できるのならばと、腹に黒い一物を抱える金持ちたちは、そういった意味で占術士や錬金術士を重用していた。

 実際には、そう都合よく魔力は利用できるはずもなく、失敗に終わることも多かったようだが。

 稀に誤った魔力の使い方が成功することもあり、呪いや毒を研究する者やほの暗い感情を持つ一部の者たちの心は、いつしか『悪魔』という存在を生み出した。

 魔力を持つ者たちは箔を付けるため、自分は闇に蠢く者を使役することさえも可能だと、囁くようになっていった。

 その嘘がひそかに広まり、やがて漆黒に包まれた人とは似て非なる者を崇めるようになっていった。

 悪魔は漆黒の髪と瞳を持ち、いついかなる時も黒衣を纏っている。人に酷似した容姿を持っているが、人ならざる者とされていた。

 そして無尽蔵の魔力をその身に宿し、欲望のままに力を振るうとも言われている。

 陽の光が差さない魔界と呼ばれる地で、彼らは強大すぎる魔力を有した魔王にかしずき、人々の絶望を糧にしているらしい。

 その悪魔を人間がなんらかの方法を用いて召喚すると、その対価によっては願いを叶えてくれるという話もある。

 本当に悪魔という存在を目にしたことがあるのか、はたまた妄想による産物なのか、それに答えられるものは一人もいない。

 しかしながら、人々の心には、いつしか悪魔の存在が根付いていった。

 ある者は悪魔教の教祖となり、一部の人間から支持されるようになる。

 またある者は、子供を躾ける際に悪魔の存在を持ち出し、「悪い子は、悪魔に攫われてしまうよ」と口にする。

 いずれにせよ、闇の色を持つ悪魔は恐怖の対象だった。

 かつてのように魔力が溢れた世界とは程遠くなってしまったアシュガルドの各地では、兄妹神と同等に、『悪魔』というものが知れ渡るようになっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ